白馬会展覧会概評(二)

  • 牛門生
  • 毎日新聞
  • 1902(明治35)/10/18
  • 2
  • 展評

◎十数点の出品優に壁の一面を覆ひ、其筆を賞すると共に其人の健在を悦ばしむるのは在巴里和田英作氏の作である、景色人物静物何れも佳ならざるはなきが中にも編物が最もよく思はれた、筆情渾穆にして少女の余念なき情も現はれ、窓外よりカルテンを通して指の上に映じ来る光線の工合も非常に手際に徃ッて居る恐らく近年同氏より送り来れる中の傑作だろうと思ふ、冬の日は最も仕事に骨を折ッた作と思ふが、樹の影の橋の続きらしいものが確かり説明されて居ない、冬の池畔は前者よりも冬の感じが強くされる、夕雲は残暉を帯びたる雲いろいろを随分研究して居る、静物は色彩の配合よく又器用に描いてあるが、海老色の敷物が前面後面の遠近不充なる為め後ろの敷物が前に押出されて居る、少年の顔も非常に好い、其描方の手際なことは此にも表はれて居る、婦人読書も好いが書物の影になり居る右の手は少しハッキリしない、顔より髪の毛を掛けての色はよかつた、兎に角夕雲の紅ひなるを見て氏が洋行前の渡しの船待を思ひ合はせるもあるべく、編物などの人物画を見て今日の氏の進歩を遥賀するもあるべく、其の作品の前は評判とりどりである
◎塩見競氏の葱洗ひ、田家自然の情があつて面白いが、葱を洗つて居る流れと前の方の地とが平らを、寧ろ地の方が低く見へる森川松之助氏の曇りは図も面白く六点の中では最もよく思はれた、雨は雨降らずと改題した方が宜い、慥か傘をさして居る人が居たかと覚へて居たが、肝心の雨の方は留守と為り了つて居た (牛門生)

前の記事
次の記事
to page top