裸体画問題(七)

  • 高等女子師範学校長高嶺秀夫氏談(縦覧尚早)
  • 読売新聞
  • 1901(明治34)/11/12
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白馬会が裸体画を出品してから裸体画の事に附き色々議論を する人もある様で美術界の一問題となつた様ですが私ハ固より美術家で無いから技術的から観察することハ出来ないですが御承知の通り以前美術学校 の校長をした事もあるので少しく思ひ附いた事もないでハない△質ハ裸体画のモデルも私が美術学校の校長をして居た時分必要が あると云ふ事からして学校で使用することを許したのです技術家が人体を描くにモデルの必用ハ勿論人体の解剖までも必要があるのハ論を俟たないですが 併し専門家にモデルや人体の解剖までも必要があるからとて直ちに裸体画の公衆縦覧を許すことハ熟考する問題であろうと思ふのです△日本にハ自 づと日本の習慣もあり隋つて感情に於ても外国とハ異ふのですか ら仏国で如何であると云つても其れを直ちに応用することハ無論出来ない訳合です△個人としてハ私も裸体画を見て良い気持ハせぬのです然し裸体画の最も得意とする形、色線の美とか云ふものと充分に遺憾なく顕はして居る妙画なれバ差支ハ無いでしやうが果してこんな妙画があるかと云ふと先 ず少いと云はなけれバならぬ此の論法で云ふと中々我国などにハ公然公衆の前に出して風紀上有害の感情即ち極端に云バ鄙猥 な考などを起さぬ妙画が果してあるでしようかよしあるとしても前に云つた感情及び習慣などが異て居るのですから公平な脳髄を以つて判断して少し も風紀を害せぬと断言する画があるでしようか△此度の問題になつた画などハ用捨なく云ふと実ハ婦女子抔にハ決して見せたくないのです……決して一概に排斥するでハ無いが……△又或る方面から見ると西洋の夜会などにも禮服として 用ゆる衣服にハ却つて人体の上半部の或る部分を顕はして居るのです からこれ等に附いて考へて見ると人体の或る一部を顕はすハ西洋では決 して差支が無く否な禮服に人体の或る部分を出して居るのですが此等が我邦と習慣の異つて居る点でせう△希臘などの如く人体の美 即ち体格ハ勿論姿勢の事までも之が美であると云ふ標準を示してこの方向に進むと云ふハ無論必要の事でありましよう詰まりタイプ、ヲブ、ビユーチー と云ふ方面から論ずれバ随分必要もあるのです……が日本で裸体画を公衆の前に展覧せしめるのハ時期が未だ早いと思ふのです

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