白馬会の一奇観(裸体美人に布を掩ふ)

  • 都新聞
  • 1901(明治34)/10/20
  • 5
  • 雑報

目下上野公園に開設中なる白馬会油絵展覧会にてハ予報の如 く去る十七日より開会し一昨日に至りて作品の陳列全く済みたるが 同日午後一時三十分、吉永下谷署長臨検のため同会へ出張し来り陳列の作品を一覧し裸体に関するものを見るより風教上差支あり且つ観者の実感を挑発する虞あれバ局部を露出せしめ ざるやうなせよと注意を与へたれバ同会にてハ直ちに其注意に従ひ紫色の巾 を持ち来りて局部に覆ひを施したり今其覆ひを施せしものを挙ぐれ バ黒田氏が仏国より購ひ来りしコロンの油画天使其他四幅、同氏が 同地より借り来りし古代彫刻希臘諸神像七個及び同氏が巴里滞在中 製作したる油画大幅裸美人の座し居る図なるが其覆ひやう 甚だ乱暴にて紫色の巾を額縁に結び付けたるのみなれば局部以外の個処をも覆ひ盡されて画面の意味ハ解し難く殊に彫刻物ハ古色蒼然として小形の玻璃凾中に入れあるに斯の如く乱暴なる覆 ひを施したれバ像の精髄ともいふべき処ハ隠れて何の像なるか弁別 しがたきに至りたり

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