此程白馬会展覧会を両三度窺いて、思ついた事を少し許書いて見ることとなツた、蟷螂の斧を揮て龍車に向の譏は免るまいが、 正直な用捨ない素人の評（？）は、ナカナカ情実ある諛言多い黒人の評（！）に勝ることあるを生は堅く信ずる、老婆能く白居易の詩を評 し、田夫能く応挙の画を誹るを得ば生に於て何かあらむだ、白馬会一口評 と同様に愛読の栄を賜はらば幸甚
△高木誠一氏の「ひなた」　椽先 の便所と鉢前とに日の當ツてるツマラヌ処を画いたのだが、真面目に手際 よく出来て居る、光線の植込や戸に當ツて居る工合などは十分 に能く現れて居る、通例、大作にのみ手を付けたがるのに、独り氏が斯 るツマラヌ処迄も、誠実に研究して見やうとしたのは感心なことである、△塩見競氏の「渓流」　 俗塵を離れた山間に、たゞ一つ建てる茅舎の傍の痩岩■石の間を 小川が潺々として流れて夏を世外の趣が遺憾なく現はされて、さながら渓流 に臨める心持がする、又色彩には一種の面白味がある前途多望 と言ふべしだ
△田中寅造氏の「山村の夕暮」　暮色蒼然として山と家とを覆 ひし工合は能く画かれて暮方の景色が申分なく説明せられてあるが屋後 の畑を無造作に画かれたのは感心出来ない△出口清三郎氏の「花売」　面白い題目を撰 ばれた、花には申分がないが花売の姿勢が一体に悪く、足や手の工合 は殊にマヅイ、これは下絵の不確な為である、其から松と女との隔りがなく、為に松が女の後にある書割のやうに見えて可笑い、又庇下の花売や花に影が差して居るのに、窓の内の女の顔から室内に迄差し て居らぬのは理に合はぬ、影を室内に迄及ぼして庭に光線を取ツたら、室 内と庭との区別がつき、背景の説明が十分に出来るだらう