白馬会展覧会を観る

  • 芳陵生
  • 毎日新聞
  • 1896(明治29)/11/05
  • 3
  • 展評

熊本城下洗馬川の涯なる我より、東京麹町なる桜東君の許 へ、白馬会の開会を祝したる辞、頗る好景気なりとの返事往復せられて、山河萬畳四百里近き彼方此方に、嬉しき友垣の言葉結ばれ しは二十日許前の事なり
帰京匆々過一日上野に遊びぬ、何よりも先 づ眼に入るハ白馬の二字なりけり、白地に青く篆書もて白馬会展覧会とものされたる細長の立札、流石に思ひ附かれしことかな
会場の装飾いづれ用意の深からぬはなし、陳列方のキチンと整へる見るからに好き心地 なり、僅々十一人にて、二百点近く油画を出品されたる、勉強のほど感 に余りぬ
景色画ハ京都大磯などの風光最も多きが如し唯だ客中 我に親みし須磨舞子の絶景ハ何処にも見出されず
安藤仲太郎君が久し振りにて出品されたるさへあるに、其の京都を描きて廿余点に及べる、寔に近頃の観物なり
黒田君は小督局物語に、藤島君ハ水彩画に、小代君ハ澎湖島に、久米君ハ仏国のムーズとやらに和田、白瀧、岡田、湯浅、中村、小林の諸君は京都大磯等 の景色画に、夫れ夫れ大気焔を吐かるゝところ、客中にて思ひしよりも一層盛んなる旗揚なり尚ほ今月一杯は日延べ開場するとのことにて、此日より毎 個番号を打ち出品目録をも製して会場に備へぬ
白馬会 ハ其名に於て其実に於て、既に世人の認識に上りぬ、美術発達に関して、其の同会に待つところ、甚だ大なるを知るべし

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