黒田清輝氏と肖像画

  • 毎日新聞
  • 1896(明治29)/05/22
  • 1
  • 雑報

氏が半生の心血を濺げるは高倉帝の陵の前に一老僧を捉へ来り遊客美人賎婦を拉し来りて他の直写的の図とは全然趣を異にして側面より哀れなる小督局の物語を写せるものなり今は個々の人物一々に其粉本を作り終りぬ此等を集めて全幅を写出する は尚ほ数月の後なるべし彼の裸美人が氏の大作たることは言ふを俟たず而して此小督局は彼裸美人の當 時よりは更に技倆の鍛錬を添へ来りし今日の作なれば之れに勝れる大作たることを知るべし此大手腕を揮 はるゝ間に於て氏は肖像画に毫を染め居らる貴衆両議院にては正副議長、書記官長の肖像を写して院に備へ置かるゝ由にて先年は安藤仲太郎氏其頃の貴族院副議長東久世侯を写しぬ今年は黒田氏衆 議院の嘱托を受け日々同院に到りて書記官長奥田義人氏を画き居らるゝと聞く

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