美術意見とりどり(八)

  • 報知新聞
  • 1896(明治29)/10/30
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◎黒田清輝氏曰く 世に云ふ旧派と新派との区別をザツト申せば旧派では景色でも和田ノ岬なら和田ノ岬を只写生して顕はす迄ですが我々 の画く方では其和田ノ岬の晩景をかくとか月夜をかくとか雨中をかくとか其景に応じた感 情を写すので只景色の写真を写すのとは少しく異なる所があり升 ◎又曰く 日本美術については我々の眼からは只一種高尚の雅致のある所を敬服するので丁度ポンペー時代の古物を見る如く此の複雑な時代に方つて極めてシンプルに画がゝれてゐる、誠に子供らしい所があつて雅致 のあるものです、ソウ云ふと誉めたやうな悪く云ふやうな話ですが、日本絵の長所 は十分あり升其は光線をつけて物体を現はすのは西洋画の極めて拙 な所で絵と云ふ者は見て感情を快よくしなければならない者ですに陰などが 真黒に出てゐては頗る心持がよくないソレを日本絵では光線なく勝手にか いてゐる、又日本絵の線と云ふのが大層宜しい、尤も我々から見ると世 の絵家が線の筆力肥痩を厳しく云ふのは殆ど必要がないと認めるの ですが、其線に見馴れてゐる日本の洋画家は其おかげでソンナに不様な人物を 画ことは有ませんが西洋の画には甚しい不様な人間をかくことがある是等 は線でかく画を見ない欠点です
◎又曰く ソコで今の日本絵中隈などで光線 をつけるのは極めて拙な限で西洋の悪い所を学んでゐるのは甚 だ気の毒な話で又大人臭い厭味な画が続々出ますのはをかしいけれど、又在来 の日本絵の子供らしい所はよいに相違ないがモウ一歩進んで其大人く さい所と合併して扨老年になツて真の子供らしい所をかくやうになれば非常に面白いと思はれる

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