白馬会展覧会批評(三)

  • 報知新聞
  • 1896(明治29)/10/27
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  • 展評

◎閑僧吹火図(黒田清輝氏) 野寺の八疊敷計なる方丈にまだ青道心の頻 りに爐に向ひて火を吹くに火は盛りになりて鉄瓶の湯のたぎる音す、正に是れ寒夜客来つて茶を酒に宛つ竹爐湯沸いて火初て紅ゐなりの 趣あり只窓前の月と一枝の梅とを欠くと雖も相対して半夜の閑 を消すに足らんか僧侶の面白き姿は勿論衣紋竹に衣服の釣したる経机に経巻などの堆積したる様真に近く、さすがは白馬会の団洲 として其権式諸図の中に見はれ、一種の気品あり見れども飽かぬふしい とめでたし、諸図中■は出来不出来一定せざれど此図こそ傑作として採るべきものなるべ し
◎岡田三郎助氏は黒田門下にありて屈指の青年出品何れも面白しけれど分けてユルギの浜を可とす
◎湯浅一郎氏の画時に俗気あり旧派としては差 支なけれど新派としては尚多少の工風を費やされたし品川夕景頗る佳
◎合田清氏は洋画彫刻家として我国の元祖なり其彫刻の工合殆ど外国に劣らず数種見本を出されたるが何れも精巧を極めたり
◎焼芋屋 頬冠せる車夫あり赤児を背負し子守あれば岡持を携し下女あり雑然混然店頭大繁昌、老爺蓋を取りて将さにお芋の加減を見んとす、狂画としての最上乗、歌あり附記す、
氷屋の店 もさびれて焼芋の烟たなびく冬は来にけり(完)

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