白馬会展覧会を見る(続)

  • 国民新聞
  • 1896(明治29)/11/23
  • 4
  • 展評

白瀧幾之助氏の品海の片舟(一二二) 捨小舟さびしく波のまにまに漂漾せるあり青空と小舟の陰影を交々相映じたる波浪の説明極めて周到なり加之頭上より画面の右方に斜に流れたる一連の雲影其景状佳に布置宜しきを得たりと謂ふべし
同氏の矢口渡頭(一一八) 一帯の江水画面を横ぎつて流れ埠頭に達する一路宛も丁字形をなせり概ねかゝる図様のものは機械的に流れ見難らく覚ゆるものなれど氏の堪能なる渡し待ちの人物と青菜洗へる作男等を好位置に排列し以て画面の調和を計られたるは感ずべし人物はいづれも活動し雨中の光景頗る快く思はれたり
岡田三郎助氏の甘酒屋(一七五) 画題を通常一般常に目に触るゝ処のものに取り観客をして不覚流涎せしむるは敬服すべし甘酒屋の暗黒なる店頭に純白なる大行燈を置きたる其落想頗佳なり対側の家が其陰影を形面白く大道に抛ち其主眼を挙ぐるに力を盡されたるは感ずべし
同氏のゆるぎの浜夕暮(一七四) 波浪の中より斜に陸上を望みて画かれたるは構成に於て甚だ目新らしく覚ゆ白波一たび寄せ来り渚辺を洗ふて今や引去らんとす二人の漁父あり今日の獲物など語りながら家路に就かんとて浜辺の暮色其光景画面に躍如たり
黒田清輝氏の散歩(一二七) 夏日妙齢の少女が日傘を手にして野径を逍遥せる様を写したり画幅を二分すれば一面は半身の少女にして一面は風景なり少女の見るも涼しげなる薄衣を着け右手に傘をかたげ左手は無造作に紅色の帯の間に挿み何物を見るとも無く無心に連歩を移せる様はいみじくも画かれたるもの哉傘は概ね画面外に溢出し只其擔端の一部を示せるに過ぎず其落想の新奇にして布置の奇抜なる邦人の画として未だ稀なるものなり其筆致設色いづれも真面目にして画面頗る穏當に見らるゝはうれしき限りなり

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