和田新調査撮影記録

 美術研究所草創期の所員であった和田新が、財団法人啓明会の援助を受け、1929(昭和4)年9月から翌年5月まで、西アジア美術研究のため欧洲、ソ連、中東地域、エジプト、トルコなどを訪れた。最も力を注いだのはイランでの調査・撮影で、その成果は『イーラーン芸術遺跡』(和田新、美術書院、1945年)として刊行された。本項にはこの海外調査旅行で撮影されたフィルムの一覧を示した。なお、1983(昭和58)年、和田新は当研究所に宛て、この資料について以下のような書簡を寄せている。

西アジア遺跡の写真(ネガ・フィルム)について

和田新

 昭和四年九月から翌五年五月までの間、私は、財団法人啓明会の補助を受け、西アジア美術の研究を目的として、欧洲諸国、ソ連、イラン・イラク・シリア、レバノン、パレスタイン、トルコなどの諸国歴訪の旅をしました。これらのうち主力を注いだのはイランでした。

 此の間に写した写真は、大判手札型凡そ一千枚、名刺判凡そ六百枚(別紙目録の通り)で、カメラはどちらもツァイス・イコン、テッサーF四・五附、フィルムはアグファのフィルム・パックを使用、現像は殆ど日本に帰ってからしました。

 これらの写真のうち、イランの主なものは、小著「イーラーン芸術遺蹟」(昭和二十年美術書院刊)に図版として使用、また平凡社の世界美術全集等にも複製使用して居ます。

 各地域の撮影時期は、記録を亡失したため正確ではありませんが、ソ連裏海の港バクーからイランのパーレヴィに渡ったのが昭和四年十二月初め、テヘランから西行、イラクとの国境近くのカスル・イ・シーリーン迄行き、テヘランに引返したのが同十二月末でした。昭和五年一月、テヘランから南行、イスファハン、パサルガタイ、ナクシ・イ・ルスタム、ペルセポリス、シーラーズ等を経、二月初めブシール港からイラクのバスラに渡り、バグダードを中心に、南メソポタミアの諸遺蹟、三月にかけて北方モスル附近のアッシリア諸遺蹟を訪問。それからシリアの地中海岸に出で、南下してエヂプト迄の旅をしました。アレキサンドリアからイスタンブールに渡ったのは四月でした。アルバムのフィルムは、大体右の行程順に整理してあります。

 これらの地域のその後の変化は著しいものがあると思われますだけに、この写真が一九三〇年頃の実状を留めた資料として、この方面の研究に少しでもお役に立てばと祈願する次第です。

(昭和五十八年十二月)
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