白馬会展覧会批評(二)

  • 報知新聞
  • 1896(明治29)/10/24
  • 1
  • 展評

◎燈台図(久米桂一郎氏) 何所の岬なるらん岡の小草青々として寐よげに見 えたるに茨など生茂りいさゝ小川其間をさらさらと流れて野飼の牛の咽喉をや潤すらん岡の上なる燈台はあまりに高からねども海上遥かに照らすに足 なんあはれ島の少女と打群れて空晴れ気澄みたる秋の一日を大海原を見 渡して詩歌など打吟じて徘徊らんにはいと興あるべし、氏の腕前さすがに欧洲修 業の事とて其筆の使ひ様重みあり邦人の作とは思はれぬ計りの傑作なり
◎白瀧幾之助氏の出品中左して注意をひくに足る者 なけれど渡場の図少女猫に戯むる図は氏としては上出来なるべし、但猫に申分ありミーラの如し
◎湖水図(和田英作氏(わだえいさくし)秋も漸老け草木も色変へぬる程に湖の水少し涸せて游魚影を潜む堤の下に田舟あり傍らに賤の男の柴を背負ひたるが何の思ふ所があるらん心無き身にも秋の哀を身にしめて 打眺むらんとをかし、氏は黒田門下の錚々たる者青年として評判宜 しければ筆に愚はなけれど野径の図などは余りに師に真似たるの嫌ひあり、此他霧、雨両図 とも傑作と云ふべし

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