美術の季節となった。上野公園には、ハヤ既に展覧会が開かれて居 る。白馬会を第一として博覧会跡の二号館には同会の外に国香会の女子絵画展覧会、桜が岡には、文部省に反対の正派同 志会を合併した美術協会が開かれ、それにつゞいては来る廿五日からの文部省展 覧会、読画塾、無声会、写真会などが開かれんとして居 る。博覧会の開設に依つて日本文明の散文的な一面を見た 人々は、こゝに展覧会に於て其詩的な方面を味ひ得ることゝなつた。い ざ、これから開設の順に従つて、それを紹介しやう。
先づ白馬会から取かゝ る。同会は現在の絵画界中、最も進み最も盛んな団体 で、其展覧会は開会前から待ち設けさせたものであつたが、今回は露骨に 云ふと平生程の盛観がない。これは文部省の出品に忙しいので、会員が全力を此会に盡すことが出来なかつた為めであらうが、其れにしては振つて居る と云つて可い。殊に少壮画家の奮起して居ること、出品の多いこと、新進作 家の紹介されて居ることなどは確かに今回の特色で、有繁は白馬会の展覧会だけあると首宵されるのである。
入場第一に目を惹くのは、山中の夕陽を描いた大幅であるが、苦心の割合に出来栄は好いものでない。この 画よりも其附近にある小幀の中に甚だ優れたものがある、斎藤氏の海辺の図外一点はモザイク風の画で、出品中では一種変つたものである。併し、全体に 落着きがなく、色も亦充分こなれて居ないので、何となく技術が熟して居な いやうに見受けられる。たゞ珍らしいと云ふだけのものであらう。