白馬会画評(三)

  • 四絃
  • 都新聞
  • 1904(明治37)/11/15
  • 5
  • 展評

第三室から先きハ白馬会の閉会の期日も切迫してゐる事だから本年 ハ短評で御免を蒙らう。
中沢弘光氏の作ハ油水彩合せて十二点の出品だが油画の海辺ハ最も好く其の技倆を現 はしてゐる。但し此の絵ハ首の廻り二尺四方位にした方がエチユードとして最も好い様に思はれる。背景の雲ハ余程をかしい。
長原孝太郎氏の少 女ハ同氏の作として近来の傑作で有る。欠点ハ少女の背景の硝子戸などに有るけれども衣服の色などハ実に何とも言へぬ好い色が出 てゐる。
湯浅一郎氏のつれづれハ足の爪先あたりに多少の欠点が有る様だし、女の肉色として例の赤味が多い様だ。
第四室の岡田三郎 助氏ハ「元禄のおもかげ」、「冬枯」などに温雅の気が溢れてゐる。
和田英作氏の「有るか無きかのとげ」ハ場中第一の大作で、又本年の呼物となつた もので有る。然るに開会以来、世評ハ多少の欠点を見出して其に 向て恰ど攻撃的態度を取つたものが多い。
だが世間で油画と云ふ ものが如何程の時日がかかるかも知らずに、日本画などの只面積の多いものを大作と見た眼で見るので有るから無闇に悪く云つたので有らう。
其で他の小品 と比較してこの大作よりハ小品が佳いと云ふのハ間違つた話で、大作に対してハ大作として具へなければならぬ。画稿ハ画稿、未成品ハ未成品、としての価値で有つて未成品を直ちに完成した画と比較するのハ無理な次第と云はねばならぬ。
又八百屋お七ハ見る方の人が自分で一種の八百屋 お七なるものを空中に描いて置いてから此の画を判断するから其に合ねば 否定すると云ふ事も有らうし、有意味の画題と無意味の画題とでハ画家に取つて大に損徳が有る様で有る。
以上ハ只画家に対する批評 家なるものが余り軽率な評をやる者が多いから此処に注意したので評者 が全体責任を持つて評をせぬのが悪いので有る。

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