白馬会案内記(三)

  • 四絃
  • 都新聞
  • 1903(明治36)/10/13
  • 1
  • 展評

第二室で先づ眼を惹くハ岡吉枝の色鉛筆スケツチで、色鉛筆で好くあれ迄に描いた物だと思はれるのが多い
湯浅一郎の平潟、磯の浜、磯、の三枚ハ最も珍品で油画の出品ハ之迄毎度見た事が有るが水彩ハ今年が初で有るのだ。中で六十六号の磯の浜なぞハ最も面白い
模写の方は四枚有るが二百九十六号がヴエラスケスの画を和田英作が写したもので、其他ミレーの落穂拾ひ、クウルベの波の二枚ハ同じく和田氏の模写で有る。
中央に最も人目を惹くのが月神の画で裸体の婦人が空中で月を弓にして引絞つてゐるのだ、元は仏国のロサンに出たゴブラン織の下絵なのだが山本芳翠が初めて模写と云ふ事に手を付けた画で有るから日本の洋画史の上から見れバ中々面白い物で有る。
ミレーの落穂拾ひハ近来流行語になつて居る処から館中第一なぞと云ふ素人見物の声が有るが模写する人が元来器用なので、ミレーの不器用の様な実直な画風と相馳駢して居る様でミレーの画の底からハ絶えず和田氏の才筆が顕はれてゐる様である。
然し日本の如き参考とすべき名画の乏しき国に有てハ之の如き模写は実に或る一種の指南車たるもので有て後学の士ハ之に依て益する事が多いで有らう。

前の記事
次の記事
to page top