白馬会展覧会略評(三)

  • 黒白子
  • 中央新聞
  • 1902(明治35)/10/08
  • 1
  • 展評

岡田三郎助筆『読書』『少婦』『盛夏』『初夏』総て裸体画 四点、皆是れ巧みに軽妙なるコランの筆致を得たるもの、就中殊に『読書』と『少婦』を推す、共に色彩極めて穏和にして軽快なる蓋し裸体の上乗なる可し、『盛夏』は其趣を写し得たるも余り弱きに過 ぎ、『初夏』は野花の麗はしきに対し少しく其体容に欠くるやの嫌あるを惜 しむ、然も是等凡て此会の呼物として、優に推奨の価値あるを信 ず△『パリの郊外』風景画数点孰れも佳く、殊に目立ちて覚えしは、此 パリの郊外の雨後の夜景と見えて、地面の濕へる趣光の色の宛がら実際の如き中々面白し△フオンテーヌ、ド、チヤーヌ パステルの洒落なる風景画にして、樹木の筆意空の色共に頗る妙味あり、只だ何となく水上に落ちたる影の黄色なるが、余り重く強過ぎたるやに覚ゆ△黒田清輝筆油絵小品六点 海四点、花、林皆としては面白きも、畢竟 是れ責を塞ぐ為のみならん、黒田氏の作品として評するほどの者にあ らず『雪』兎に角黒田氏今回出品中比較的大なるものなるが描法甚だ粗雑にして素人評者の眼には殆ど其妙処を見出し得ず只だ手 前の樹木の棒を突きさしたる様なるが気になりたり△山本芳翠筆『肖像』 不相替厭味な画風なり△中沢弘光筆『箱根の山駕篭』 氏 が写実に於ける技量は近来著しく進歩の傾向見えて此画の 如き又其一班を窺ふに足る、只コムポジシヨンに於て甚敷不自然の 跡見ゆるは畢竟遠近法を誤れるが為なる可し△磯野吉雄筆『習作人物 』 其陰影の汚く重きに過ぎ痩せて骨立ちたる体格の醜なる一見只曲線美は斯の如き者なるかを疑はしむるなり△『李鴻章と佐藤 総監』 更にデツサンの研究を要するものあらん△湯浅一郎筆『海士』 房 州根本海岸附近の景ならんが今少しく面白く描くを得ざりしものか、一見 男女の別を知る能はず、海士の色黒しといへどもかゝる色にては之を感心するを得ず、但し他の小品には中々面白きものあり

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