白馬会瞥見(其四)

  • 瞥見生
  • 国民新聞
  • 1901(明治34)/10/29
  • 5
  • 展評

北蓮蔵氏の出品中には大作も多いし上出来の者も沢山有る が其内で『玉屋』『肖像画』『ナチエルモート』などは色も目ざわりにならず態度も可し写生も行 き届いて居て同氏の作中主なる者で有るが大作としては欠点も少 い様に見受けられるのは氏の技倆の外ないだらう然し強て批評するな らば先づ『玉屋』は氏の出品中の大作で左の方に居る婦人は此れと向 ひ合つて居る二人の小娘が今シヤボン玉を吹き出して居るのを見て居 る処の図で有るが色と云ひ形と云ひ実に欠点が無いし其れに 気持も充分有るし今玉を吹かんとして居る小娘の着物がフランネルで其の前 に見て居る婦人の着物が白縮だろうが実に善く現されて居るようだ 然し一人の玉を見て居る小娘の着物は多分真岡の白地で有 ろう作者は之の三ツの着物の差異を現はす積りだろうが此の真岡の白地は少し フランネルの気持が有る様に見へるのは甚だ以て遺憾だが兎に角白地模様は非常に六ケ敷い者と聞いて居るが上手に画きコナシたのは感心感心次ぎが『肖像絵』と『ナチユルモート』此は外に比して一番無難かと思ふ尤も他の 者より聞く処に依れば目下出品中の田舎老人の肖像は在来の暗き絵にて出来上り他に一枚之れと同じ形の明かるき者とを出品し暗明両派にて研究したる結果を公にするの考有りし由なるも如何 なる為めか今日之れを見ず『玉屋』抔から想像して実に遺憾だ次が二枚 の『ナチユルモート』之も同じ暗き絵だが『肖像画』と同等の作で実に上出来と云はざるを得ず中にも『魚』の方は出来上りの上でも作者が魚には非常 に苦心したろうと思はれる点が有る其れは魚の頚部から顎の辺には指にて画き「ヘラ」(ヘラはソツクイヘラ様の者なり)を用ひ又筆を用ひし跡がありあ りと見へて苦心の程御察し申します其の為めか面白味が充分有る様に見受けた◎跡見泰氏は當年初めての出品だが景色画三枚有 る内で『海岸の夕陽』の絵が一番上出来と思ふが何れも地面が平面でなり立 つて居るのは惜ひもんだが画き方も大様で色も悪くない其れに出来上 りが剛勢でなかなか面白味が有る聞く同氏は歳末だ二九其れに画きし者も沢山有るそうだが自から許したる三枚を出品するとは他人に比して男らしき処ありて後世頼母敷と云ふ可し(瞥見生)

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