白馬会展覧会奸評

  • 漠漠黙翁
  • 日刊人民
  • 1900(明治33)/10/27
  • 5
  • 展評

碧天水の如き此頃、洋画展覧会の明星とも称せらるゝ同会展覧会は、例の如く上野公園第五号館に開かれて居る、しかし仏国大博覧 会で、我邦油画の余り評判が能からざりし為め、前年に比 して社会で至極冷淡に構へて居るのは実に心外千萬である、何はさて置き、 翁がちよこちよこと走り見をしただけの所感を左に
◎三宅克已氏は例の如く親切な をだやかな描き振りで誠に喜こばしい「ハムブステツト」の夕等は申聞はないが昨年に比べるとどうも佳作が少ない様である
◎中沢弘光氏は総じて筆使がこせこせして居 る其「閑庭」等は先好い方であるが女の顔などに矢張り此欠点が現 れるのは惜むべしである。
◎山本森之助氏は色彩に就ては随分苦心されたらしいが光線の説明をも十分研究して貰ひたいの風景は今回の同氏出品中の秀逸であろう此他にも中々巧な者もある
◎湯浅一郎氏の「夏の浜辺」は成程面白い作品だが傘を手にせる女は今少し動作に就て考を煩はしたかツた且つ衣服の工合も少々難ずべきであるしかし老爺の「エキスプレーシヨン」の十分 に現はれた上半身は得も云へぬ出来であるまた同氏「スケツチ」の小品中 に健腕のものが見受けられた
◎長原孝太郎氏の「子守」の図は氏の絶品としては実に欠点 だらけの作である其顔其手足其衣服、一ツとして満足なものはないたゞその意匠丈けが氏の作かと思はれる
◎之に反して小材萬吾氏の「門つけ」は衣服も巧に 手足も正直に色彩も無難の出来で一昨年の馬士の図とは大変 な相違である、だが振り返り居る小女は如何にも活動を欠て居て残念 である
◎「ラフワーエル、コラン」氏の木炭画は幾度見ても見倦きがしない老練の程恐れ入つたものだ

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