秋のおとづれ

  • 牛の門守
  • 毎日新聞
  • 1899(明治32)/09/29
  • 5
  • 雑報

◎徐々と美術的好時候と相成申候、目に触るゝ総ての景物の美はしく、詩的興 趣を惹くことの切なるは秋の日に留め申候
◎画家も此時期 に於て其作を産する最も多き様なると同時に、世人も随て此時期 に作品を観る方、辺りの景情に助けられて又格別の面白味を覚ゆる様に候、今年の上野の秋も、今数日の後には又々美術の別 天地を作し、殊に巴里博覧会出品も更に此より出づべしと聞 へて、一層の賑なるべしと今より想はれ候
◎谷中の美術院は、今年は矢張其の古巣ともいふべき上野に出てゝ、五号館の一部に開かるべしとのこと、何が扨て 美術界の関ケ原と申すべき上野に出るにあらざれば二割方の損はあるべ く、此処で協会と相対して旗幟を翻へす処近頃の見物と在候
◎先日の鑑査場には、新たに美術院より出品せしものなく、随て小 堀鞆音の筆は未だ巴里に持出だす術さへなく、観山広業大観音悉な其選に入りしに独 り彼を残すこと其技倆の上に考へても遺憾の心地被致候、遖れ此度の同院展覧会に於て此感を回復するの愉快あらまほし と、贔屓目の望切なれど、ソレも其作に依ること、転た開期の今より待れ 申候
◎洋画界の元気もの白馬会は、いよいよ来月一日早々開場と決 し候由、場内の装飾陳列等にも意を用ひ候彼れの今年はと探 り候処、彼は又々新趣向の先鞭を着け申候
◎表の入 口には紫と白の染分けの幕を廻らし、場内は四間四方計り の小区画を二三ケ所設け、作品の大小に依りて、夫れ夫れに配置し、中央広場 の真中には、佐野昭氏が熊本第六師団の為めに造り今既に彼地の城 内に建てられ居る凱旋紀念銅像の石膏模型を置き此辺の一隅に看客の小憩所を仕切るなど、例もながら気の利きたる用意に候
◎彼 れ白馬会の出品は凡そ二百点以上までは目下既に決定し居 る趣にて、北連蔵氏の「野辺の送り」を初め青年家の所作に、割合に大作多 きやに聞及び申候怱々不一

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