白馬会の油絵を見る

  • 愛画素人(投)
  • 都新聞
  • 1898(明治31)/10/13
  • 1
  • 展評

白馬会と云へバ新派洋画家の会として其の名高し今ま此会員諸氏の腕を揮ひたる油絵の展覧会に臨みて失望したるハ(第一)に何 れの油絵も色合薄ボケて快豁ならず霞を隔てゝ月を見るの観ある事是なり(第二)に自然の景色を写すに偏して意匠の見るべきも の無き事是なり(第三)に草木の色合光線等往々自然の美と相適 はざる事是なり(第四)に人物の顔色揃ひも揃ひて日に焼けたるが如 く黒ずみ居る事是なり(第五)に大作の乏しき事是なり、色合の 薄ボケ居る事ハ満堂殆んど皆然りと云ふべく只安藤仲太郎氏の筆 に成れるものゝ中二三快豁なるものあるのみ意匠に乏しき事も亦た殆んど 一般に及べる弊にして茶畑の図、稲叢の図など其の甚だしきものなり、畢 竟自然の景を写すに偏したる故ならんが只意匠の見るべきハ黒田清輝氏の筆に於て之を見る、色合光線等の自然と相適はざるハ悉 く然りと云ふにあらねど多くハ然りと云はざるを得ず木蔭を漏るゝ日光が大木の幹や女の着物に写りて金紙をベタ貼りしたるが如くに見ゆ る抔ハ不感服の手際なり黒田氏の作中にも亦た此欠点あり彼の昔話 とか云ふ大作を以て例せバ緑葉の間に紅葉の見ゆる様なども一寸見れバ山火事でもあるかの如くにて見栄え宜しからず、人物の顔色の黒ずみ居るハ田舎者を写したりとせバ尤なるも芸者の顔にまでも黒き隈のあるハ心得ず黒田氏の昔話に在る人物も亦た煤ボケ居 るのみか顔に情の写り居らざるハ遺憾なり、人情を写したる画としてハ黒田氏 の作よりハ鉛筆画ながら北連蔵氏の葬式の図抔ハ上出来の方 なり、尤も多くの列品中にハ上出来のもの少なからざるべしと雖ども何分大作 とてハ数ふる程にてアトハ小なるものゝみなれバ眼にとまるもの少なきぞ遺憾なる兎 に角其大作たる点より見るも黒田氏の昔話しを場内第一に推 さざるを得ず欧洲人の筆に成れる出品も十数枚見受けたれど白耳義の某氏 の牡丹園の図の外ハ感ずるに足るものなかりき此牡丹園の図も大風のアトの如く花の様乱脈なるハ見苦しく覚ゆ

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