白馬会員大野屋に讌す

  • 毎日新聞
  • 1896(明治29)/10/02
  • 3
  • 雑報

洋画界の元気もの白馬会は曩にも記せし如く初陣の秋季展覧会も略ぼ準備整ひて開会間近となりけれバ此際会員相会して大に気勢を張らばやと一昨日午後四時より芝口大野屋の楼上に会しぬ西京に居れる安藤仲太郎、中村勝次郎の二氏を除き技術家批評家の会員悉く来集し外に一二の有志者を交へて都合廿名
山本芳翠、小代為重、黒田清輝、岩村透、佐久間文吾、藤島武二、久米桂一郎、岡田三郎助、和田英作、菊池鋳太郎、佐野昭、小林萬吾、今泉秀太郎、長原孝太郎、合田清、堀江松華、関如来、吉岡芳陵、小倉惣次郎、寺山啓介
の諸氏なりき海上漸く暗くして献酬今や盛んならんとする折しも白馬会のことに厶りますれバ大坪流の乗馬を御覧に入れんと例の便腹を抱へて愛嬌タツプリ室の中央に現はれしは例の山本芳翠氏何時拵へ置きけん白布にて巻きたる馬の首を便腹に括り附け乗馬の体あり是れよりは馬の解剖を御覧に入れますると白布を解き初むれバ東京美術学校美術解剖の講師たる久米桂一郎氏は差向之が助手となりて甲斐甲斐しく働きぬ流石流石と喝采の中に件の馬首ハ白馬会萬歳と記し奔馬を画きたる提灯二個と変じけれバ一座ドツと叫きて此日の妙技一等賞いざ受け玉へと盃の降ること助六の煙管よりも多く次に菊池小代氏等の余興ありて歓笑の声夜半迄芝浜の波を揺がしゝハ先ごろの集讌にも劣らぬ盛会といふべし同会は昨日より展覧会開館の筈なりしも会場許可の都合にて二三日ハ延引すべしと聞く

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