白馬会展覧会略評(一)

  • 黒白子
  • 中央新聞
  • 1902(明治35)/10/06
  • 1
  • 展評

白馬会第七次展覧会は先月二十日より上野五号館に開かる、新作品 の出陳総数約四百点加ふるに和田英作氏所有の広告画四十点中丸精十郎氏其他の所有にかゝる西人作小品十数点 あり、更に美観を添ふ就中岡田三郎助氏が仏蘭西土産の油絵、パステル、モダイヨン等の作品三十五点、三宅克己氏が倫敦土産の水彩画十八点、在巴里和田英作氏の曩頃帰朝したる浅井氏に托したりといふ 油絵十三点は殊に観者の眼を惹くものたり、只だ久米桂一郎氏の出品 なきと黒田清輝氏の作品の小品のみなるは何となく物足らぬ心地 せり、然れども総体に就ていへば概して例年よりは大作多く佳作多く比較 的成効に近けるが如し。
今カタローグの順により吾人の眼に映じた るものを摘評せんに△岡野栄筆『勤行』は只だ見る一面の錦絵のみ、俗 気紛々漫に不快の念を起さゞるを得ず、色彩描法遂に大作に伴はず、畢竟習熟の不足なるに坐す△郡司卯之助氏『金魚屋』は技倆に於て稍々前者に優るものあり、されど単にデツサンの修養に於て 大に欠ぐるものあり、未だ此の如き大作に指を染む可きものにあらずとす△和田 英作氏の作品十三点中風景七点、人物五点、花鳥一点あり、皆軽快酒脱の妙を極む、就中『斜陽』『夕雲』最 も好し前者は何となく朝の景の如く覚えらるゝも漠々たる景色得 も言はれぬ風情あり、後者の夕陽また中々に旨し、『冬の日』は仏蘭西のグレイと呼ぶ片田舎に浅井氏と共に旅行したる時の写生なりといふ、蕭 條たる寒木洒落なる色彩によりて描かれ、而かも巴里の特色たる空気 の色誠に巧みに写し出さる『月』『水車』『冬の池畔』『初秋』等の如き亦是れ場中の風景画の白眉たるものならん△『婦人読書』『編物』丸味の具合全体にはやらかなる所蓋し共に人物画の上 乗といふべし△塩見競筆『葱洗ひ』は色彩光線共に面白し△小林 萬吾筆『難破船救助』は大作として人の眼を惹くべき未成品、但し出来上りたりとて果して如何ならんか余り感心の作には見えじ

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