行政上より観たる裸体画(続)

  • 文学博士 大塚保次氏談
  • 読売新聞
  • 1901(明治34)/12/01
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何故裸体画に女が多い かといふにこれもツマリ美術上からの原因から来て居ります即ち絵画ハ線と色を主とするので殊に西洋の画にハ彩色が多数である又△ 色から考へて見ると女が美 で男を余り美に描くと男子の性格が無くなると是ハ事実 上の理由で女の体ハ男の如くゴツゴツしない曲線が婉曲で 彩色の上からも色の濃淡から明暗等の配合が極めて調和的に 顕す事が出来る男でハ色の濃淡、明暗の配合が調和的に ハ六ケ敷つまりコントラストが主になるのです、色を線に対して見ると性質が温で 且つ静であります、故に男ハ活発であるから、線を主とするものでハ男が適當 で彩色を主とするものハ女に多いのです
余り長くなりますが、是れで大抵盡 きたらうと思ひますツマリ裸体美術と行政の関係に就いて我が美術家 などが△大に問題としなけれバならぬ ことであらうと思ひます独逸などでも一昨年の歳暮から昨年 の春へ懸けて文学、美術、演劇、音楽等の取締に関して喧しい議論があつた独乙にハレツス、ハインゼと云ふ風俗取締規則があつて其 の重なるものハ娼妓と淫売婦及び俗に云ふ美人局等を取締る目 的で出来て居たものを拡張して文学、演劇、美術、音楽等にまでも干渉する様な規則を議会へ提出したものがあつて其の草案中 にハ鄙猥な美術を展覧するものハ罪す云々と云ふ條目があつて殆んど議 会を通過しようとしたのですそこで美術家、文学家、学者等も加はつて非常 に反対運動をしたその理由ハ色々あるのですが一ハ△警察干渉の手から離れたい 権利 が警察にあると色々弊害があるからといふ説が出て文学美術の神聖、自由、独立を維持しようとするのが目的でグレーテーカーと云ふ文芸美術を主 張するものが出来ました結果右の案ハとうとう議会を通過しなかつたのです日本 の現今ハ前に述べた独逸の如き有様に遭遇して居るのですが文学者 、美術家などハ△何故少しも運動しないのでしようか 自分が筆が採れねバ批評家に 行らしたら良かろうと思ふ位です△又當局者も各々主義意見を発表 したら良かろうと思はれる美術家のみでハ無い文学者などハ殊に美術家よりも更に虐待せられて居るのです 美術と文学とハツマリ根源から云ふと略ぼ同一のものであるから共に運動し たならバよかろうと思ふのです(をはり)

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