明治大正期書画家番付-近代的造形物の分類の確立を追う一資料
インターネット公開にあたって

 本データベースは、日本近代美術史に多大な貢献をしてこられた青木茂氏の長年の収集になる幕末・明治大正期刊行の書画家番付コレクションをもとに、平成16年3月に専用のアプリケーションで利用できるデータベースとして作成したものを、このたびインターネット公開用に加工したものである。

 加工にあたっては、近年の電子機器の利便性に対応できるよう、資料を高解像度で再撮影したほか、番付刊行年順に画像と掲載人名を記載した当初のデータベースに加えて、全データ内での頻出度に従って人名別に並べなおし、当該人名が掲載された番付画像へ導くデータベースを作成したほか、分野を分類する用語一覧を付した。また、当研究所がインターネット上に公開しているコンテンツと関連付け、作家と作品情報の連携を図った。

 作成当初の目論みは、西洋からもたらされた「美術」概念が受容されていく過程で、どのように造形の分野にかかわる人や物の分類、およびその分野の世界における位置づけが変化したかを、書画家番付から読み取ることにあった。そのため、造形物の分野分類を示す言葉と人名をデータ化し、それ以外の記載事項、たとえば住所等の文字入力は行っていない。掲載頻度別の人名リストに明らかなように、幕末から明治大正期までの書画家番付には、現在あまり知られていない人名が多く掲載されている。その傾向は明治前半期までのものに顕著であり、また、分類方法も今日とかなり異なっている。番付に登場する人名や分類が今日の近代美術史学にたずさわる者に違和感のないものとなってくるのは明治後期以降となっている。

 先の解題に記したように、当初のデータベース作成にあたっては、青木茂氏、森仁史氏(金沢美術工芸大学)、佐藤道信氏(東京藝術大学)、北澤憲昭氏(跡見女子大学)をはじめ多くの方々の御教示、ご協力を仰いだ。また、江頭幸恵、金子牧、敷田弘子、谷川ゆき、角田拓朗、中村麗子、吉田衣里諸氏に膨大なデータ入力、校正等に関し、献身的なご尽力をいただいた。インターネット公開用データベース作成にあたっては、当研究所研究員の小山田智寛氏、橘川英規氏より最新の技術・知識の提供をいただき、逢坂裕紀子氏、安岡みのり氏に画面デザインとHTMLコーディング等にかかる多大なご協力をいただいた。各位に深く感謝申しあげる。また、現在、本史料を所蔵しておられる神奈川県立近代美術館および同館学芸員の長門佐季氏のご理解、ご協力にも感謝申し上げる。

 表記揺れの統一ほか、至らぬ点も多く、また、誤記等も残されていることを懸念するが、公開によって是正されることを期待している。本データベースが、作成当初の意図を越えて、多様に利活用されるよう願っている。

平成30 年5 月
独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所
山梨 絵美子


明治大正期書画家番付-近代的造形物の分類の確立を追う一資料

 本データベースは幕末・明治大正期に刊行された書画家番付の中から、近代の造形物を分類する方法がどのように変わってきたかという問題の考察に資するよう、刊行年、分類形態を指標に数十点を選択し、人名から画像および記載事項の文字データへと検索ができるよう作成したものである。

 番付はそこに掲載される分野にかかわる人や物の分類、およびその分野の世界における位置づけをあらわす地図といってよい。幕末から明治大正期までの書画家番付を概観すると、明治前半期までのものには現在あまり知られていない人名が多く掲載されていること、しかも分類方法が今日とかなり異なることに気付く。明治後期、より限定的には官展の開設以降、番付に登場する人名や分類は今日の近代美術史学にたずさわる者に違和感のないものとなってくる。

 近年、美術史学の分野において「美術」という言葉や美術史学の成立、およびその変遷が明らかにされてきた。その中で、江戸時代には詩書画がひとつのジャンルとして存在したが、明治10年代半ばには絵画というジャンルが登場し、さらに明治20年代前半には「日本画」「洋画」といった絵画の中でのジャンルが確立されていくといったように、造形物の分類が変遷してきたことが様々なジャンルにおいて気付かれてきている。造形物を分類する際の現在につながるこうしたジャンルの成立は、ものをどのような観点から見て分類するかを物語る。書画家番付はそうした観点の変遷の一側面を物語る有力な資料であると考え、このデータベースを作成することとした。

 作成にあたっては、青木茂氏(文星大学教授)、森仁史氏(松戸市教育委員会)、佐藤道信氏(東京藝術大学助教授)、北澤憲昭氏(跡見女子大学教授)をはじめ多くの方々の御教示、ご協力を仰いだ。また、江頭幸恵、金子牧、敷田弘子、谷川ゆき、角田拓朗、中村麗子、吉田衣里諸氏の献身的なご尽力を得た。データベース作成に技術を提供してくださった国際マイクロ工業にも感謝申しあげる。

 本データベースは特定研究江戸のモノづくり(計画研究A03「日本近代の造形分野における「もの」と「わざ」の分類の変遷に関する調査研究」)の成果である。

平成16 年3 月
独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所
山梨 絵美子

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