無形文化遺産部では、無形文化遺産における新型コロナ禍の影響を継続的に調査しています。その中で、古典芸能を中心とした無形文化財(伝統芸能) への影響については2020年4月より情報収集を開始しました。情報は「関連事業の延期・中止情報」、「新たな試みの情報」、「再開関連情報」の3つの観 点から収集し、現在も収集作業を継続中です。
このたび、新型コロナ禍が伝統芸能関係者に与える影響は甚大かつ深刻であると捉え、2021年2月22日までに収集した「関連事業の延期・中止情報」「再 開関連情報」の概要を表、グラフとして公開します。現在、月に一度程度の更新を継続しています。ただし、このデータはあくまで関連事業の延期や中止が「表 明された」情報に基づいています。
さらに、新たな表現方法として「有料配信」が増えてきていますが、これについては販売数の特定が困難なことから、実際の公演等と分けて扱う必要があると考え、このグラフには反映させていません。
なお、収集している情報は全てすでにウェブ上で公開されている情報です(主な情報源は以下をご覧ください)。

・ 主な情報源

独立行政法人 日本芸術文化振興会HP
歌舞伎美人HP(松竹株式会社が運営する歌舞伎公式HP)
公益社団法人 全国効公立文化施設協会HP(正会員のHP)
公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会HP(正会員のHP)
『邦楽の友』公式FB
紀尾井ホールHP
その他、実演家および実演家団体の公式HP、FB

 

① 関連事業の中止・延期/再開件数〈形態別〉

– 新型コロナウイルス禍を明記した中止・延期は2020年2月末から現れはじめ、現段階で2021年5月の中止・影響を表明しているものもある。
– ②以下のグラフでは、実演を含む事業を取り上げた。

 

 

② 実演の中止・延期/再開件数〈月毎の推移〉

– 中止・延期件数(青線)が6月より目立って減少すると同時に、再開件数(赤線)が増え始め、8月には両者が逆転している。

– 2021年1月7日および13日には、11都府県に緊急事態宣言が発出され、今後はその影響が数値に現れると思われる。3月以降の情報が、中止・延期件 数、再開件数とも急激に減っているのは、緊急事態宣言の解除およびそれに伴う再開条件を確認してから判断しようとしていることの表れとも見て取れる。

 

 

③-1、③-2 実演の中止・延期/再開件数〈都道府県別〉

– 中止・延期、 および再開件数は、東京都の件数が飛び抜けて多く、続く大阪府や京都府と大きな差がある。

– 今回の集計で、初めて東京都、大阪府の再開件数が中止・延期件数を上回った。特に東京都での再開件数は中止・延期件数を大きく上回る。これは、単純に東京 都の実演が大きく再開に動いているということではなく、これまで集計に時間を要していた演芸関係の数値が、ようやく反映されたという作業上の理由にも拠 る。
また、現段階での「再開」は客席を減じるなどの対策を講じた再開なので、「再開件数」がすなわち「伝統芸能の復活」とは言えない点に注意が必要である。
京都府の再開件数が中止・延期件数を下回っている理由としては、伝統芸能と観光の結びつきがより強いことが影響している可能性が考えられる。

 

 

④ ジャンルごとの実演―中止・延期/再開件数

– ジャンル別に見た場合に、どのように「実演を含む事業」に影響が出ているかを知るため、このグラフでは、各「実演を含む事業」に関わっている主たるジャン ルを3つまで入力し、その数を足し上げている。例えば歌舞伎の出囃子の演目については、歌舞伎(芝居)以外に長唄、邦楽囃子が関連ジャンルとなるので、 「3」とカウントしている。同様に、古典芸能どうしの複数ジャンルによる事業であれば、当該ジャンル数を足し上げてカウントしている。

– 中止・延期も再開も、一定期間興行を行う歌舞伎と落語の件数が多い。

– 中止・延期、再開件数とも、落語、講談、その他の演芸の件数が伸びているのは、 ③-1・③-2と同様、関連情報の反映がようやく追いついたという作業上の理由が大きい。「ジャンルの延べ数」を「実演件数」単位でみると、当該ジャンルの占める割合は大きいと言える。

 

 

⑤ 実演の中止・延期/再開件数〈会場規模別〉

– 再開件数に関して、小・中規模会場の再開に勢いが見て取れる。
501~1000席の会場も再開件数自体は伸びているが、ここに含まれる席数を減じた歌舞伎公演などの興行は、一定以上の公演回数を超えて増やすことは難 しい。そのため、全体に占める割合は小・中規模会場の方が高くなっていると思われる。今後、歌舞伎公演等が満席で公演可能になると、1001席以上の会場 が占める割合が増えてくるだろう。

 

 

⑥ 実演の中止・延期/再開件数〈国指定重要無形文化財の割合〉

– 国指定重要無形文化財の保持者・団体の認定には「各個」「総合」「保持団体」(現在、芸能の認定なし)がある。中止・延期された実演の出演者に各個認定の 者が含まれていれば「各個」、「総合認定」されている団体の構成員が含まれていれば「総合」、両者が含まれていれば「各個+総合」とした。
– 未指定の公演が、中止・延期件数に対する割合61%、再開件数に対する割合62%となっていて、中止・延期の影響を受けやすかった上に、再開が進んでいない可能性がある。

 

 

*参考:

2020年 6月30日更新分の過去のデータ8月11日更新分の過去のデータ9月24日更新分の過去のデータ11月17日更新分の過去のデータ12月25日更新分の過去のデータ

2021年 1月29日更新分の過去のデータ

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