無形文化遺産部では、無形文化遺産における新型コロナ禍の影響を継続的に調査しています。その中で、古典芸能を中心とした無形文化財(伝統芸能)への影響については2020年4月より情報収集を開始しました。情報は「関連事業の延期・中止情報」、「新たな試みの情報」、「再開・開催関連情報」の3つの観点から収集し、その概要をほぼ毎月更新して参りました。後述のとおり、2023年以降の事業情報について、ウェブ上の情報量が減り、紙媒体情報誌に回帰している可能性を指摘しており、また5月8日より、新型コロナウイルス感染症の位置づけが、これまでの「いわゆる2類相当」から「5類感染症」になったことも鑑みて、当該調査については今回の更新をもって一区切りとさせていただきます。なおデータは2023年3月31日までに収集したものを反映しています。

新型コロナ禍の影響は、ウェブ上の情報からは見えない部分でいまだ続いていると思われるので、今後も聞き取り調査等の別の方法により推移を注視していきたいと思います。

なお、収集している情報は全てすでにウェブ上で公開されている情報です(主な情報源は以下をご覧ください)。

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最新情報(2023年6月5日更新)

① 関連事業の中止・延期/再開・開催件数〈形態別〉

– 新型コロナウイルス禍を明記した中止・延期は2020年2月末から現れはじめた。
– ②以下のグラフでは、実演を含む事業を取り上げた。

② 実演の中止・延期/再開・開催件数〈月毎の推移〉

 

 

– 中止・延期件数(青線)が2020年6月より目立って減少すると同時に、再開件数(赤線)が増え始め、8月には両者が逆転している。

– 2021年1月7日および13日に11都府県に発出された緊急事態宣言では、伝統芸能の実演の場そのものの閉鎖に直結する対応が求められたわけではないので、その影響は中止・延期件数にはっきり表れていない。
一方で、新たに4月25日、4都府県に発出された緊急事態宣言では、劇場、観覧場、演芸場、公会堂、文化会館に関して施設の床面積にかか わらず、無観客での開催・運営(ただし、社会生活の維持に必要な ものを除く)を要請等行ったため、中止・延期件数が急激に増え、再開・開催件数が減り、大きな影響が見て取れる。
その後、緊急事態宣言は区域を変更しながら延長が繰り返されており、回復の兆候が見られた再開・開催件数は、再び減少に転じている。

– 8月後半より新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が減少に転じ、9月28日付で、9月 30日をもって緊急事態が終了する旨の公示があった。この流れを受けて、9月は再開・開催件数に増加傾向が見られる。再開・開催件数が増加するのは6月以来3ヶ月ぶりである。さらに10月以降は、緊急事態宣言解除に伴い次々に席数制限が解除され、再開・開催公演数が伸びている。

– 2022年1月9日以降、新型コロナウイルス(オミクロン株)感染症増加に伴う「まん延防止等重点措置」が実施され、対象地域が拡大された。このことを受け、1月は中止・延期公演の増加が目立ち、再開・開催件数が減少に転じた。しかし当該措置は3月21日をもって解除されたため、3月から4月にかけて、実演の再開・回数は持ち直す傾向にある。

– 実演を伴う公演は数カ月から1年単位で準備されるため、急な中止・延期の可能性があるとしても開催を前提とした準備が必要となり、そうした見えないリスクが2年以上続いていることに注意が必要だ。

– なお、5月以降の再開・開催件数が伸び悩んでいる原因について、年度内の助成を受けている公演が一段落したり、もともと春・秋は公演が多い時期であることを反映したりしている可能性がある。一方で、情報入力の作業を行っている実感として、これまでのようにウェブ上に細やかに情報掲載しなくなっている可能性があると考え、一部、紙媒体の情報誌と照合して検証し、その概要を【シリーズ】無形文化遺産と新型コロナウイルス フォーラムⅣ「伝統芸能と新型コロナウイルス―これからの普及・継承―」(2022.11.25東京文化財研究所にて開催)の「伝統芸能へコロ禍の影響調査報告①」にて公開した(現在、【シリーズ】無形文化遺産と新型コロナウイルス フォーラムⅣ「伝統芸能と新型コロナウイルス―これからの普及・継承―」 | 新型コロナウイルスと無形文化遺産 | 東京文化財研究所 無形文化遺産部 (tobunken.go.jp) にて期間限定公開中。2023.3報告書刊行)

– 2023年1月分の調査では、本調査を開始して初めて実演の中止・延期講演数に変化が見られなかった。このことは、コロナ禍の影響を銘打った実演の中止・延期が収束傾向にあることを示すかもしれない。

③-1、③-2 実演の中止・延期/再開・開催件数〈都道府県別〉

 

 

– 中止・延期、 および再開・開催件数は、東京都の件数が飛び抜けて多く、続く大阪府や京都府と大きな差がある。

– 現段階での「再開・開催」には客席を減じるなどの対策を講じた再開・開催が多く含まれるので、「再開・開催件数」がすなわち「伝統芸能の復活」とは言えない点に注意が必要である。

– 全国での公演再開・開催件数24,398件のうち、東京都の増加が17,203件と7割強を占め、全体を牽引している。また、東京都に次いで大阪府、京都府が続くほか、愛知県、兵庫県、神奈川県、福岡県など大都市を抱える県で再開・開催件数が増加している。ほかに石川県の219 件、沖縄県の280件が目を引く。

④ ジャンルごとの実演―中止・延期/再開・開催件数

 

– ジャンル別に見た場合に、どのように「実演を含む事業」に影響が出ているかを知るため、このグラフでは、各「実演を含む事業」に関わっている主たるジャンルを3つまで入力し、その数を足し上げている。例えば歌舞伎の出囃子の演目については、歌舞伎(芝居)以外に長唄、邦楽囃子が関連ジャンルとなるので、「3」とカウントしている。同様に、古典芸能どうしの複数ジャンルによる事業であれば、当該ジャンル数を足し上げてカウントしている。

– 中止・延期も再開・開催も、一定期間興行を行う歌舞伎と落語の件数が多い。

– 「ジャンルの延べ数」を「実演件数」単位でみると、 落語、講談、その他の演芸の件数を合わせた「演芸」全般の占める割合は大きいと言える。

⑤ 実演の中止・延期/再開件数〈会場規模別〉

 

 

– 再開・開催件数に関して、小・中規模会場の再開に勢いが見て取れる。
501~1000席の会場も再開・開催件数自体は伸びているが、ここに含まれる席数を減じた歌舞伎公演などの興行は、一定以上の公演回数を超えて増やすことは難しい。そのため、全体に占める割合は小・中規模会場の方が高くなっていると思われる。2021年11月15日付で、松竹株式会社は、2022年1月以降の歌舞伎座公演について、客席は全エリアにおいて間隔を空けた2席並び(合計1231席)を原則とする配置にすることを発表した。さらに松竹株式会社は、2022年8月の「八月納涼歌舞伎」から歌舞伎座の席数制限をさらに緩和し、全座席の97.3%にすると発表した(2022年6月30日)。こうした流れを受けて、1001席以上の会場での実演再開・公演数が増えつつある。これは、2022年3月21日の 「まん延防止等重点措置」解除の影響と考えられる(前回調査2,067件→今回調査2,358件)。

⑥ 実演の中止・延期/再開件数〈国指定重要無形文化財の割合〉

 

– 国指定重要無形文化財の保持者・団体の認定には「各個」「総合」「保持団体」(現在、芸能の認定なし)がある。中止・延期された実演の出演者に各個認定の者が含まれていれば「各個」、「総合認定」されている団体の構成員が含まれていれば「総合」、両者が含まれていれば「各個+総合」とした。
– 未指定の公演が、中止・延期件数、再開・開催件数に対する割合ともに約6割となっていて、中止・延期の影響を受けやすかった上に、再開が進んでいない可能性がある。

主な情報源

独立行政法人 日本芸術文化振興会HP
歌舞伎美人HP(松竹株式会社が運営する歌舞伎公式HP)
公益社団法人 全国効公立文化施設協会HP(正会員のHP)
公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会HP(正会員のHP)
『邦楽の友』公式FB
紀尾井ホールHP
その他、実演家および実演家団体の公式HP、FB

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