無形文化遺産部では、無形文化遺産における新型コロナ禍の影響を継続的に調査しています。その中で、古典芸能を中心とした無形文化財(伝統芸能) への影響については2020年4月より情報収集を開始しました。情報は「関連事業の延期・中止情報」、「新たな試みの情報」、「再開関連情報」の3つに観 点から収集し、現在も収集作業を継続中です。
このたび、新型コロナ禍が伝統芸能関係者に与える影響は甚大かつ深刻であると捉え、まず第一弾として5月31日までに収集した「関連事業の延期・中止情報」の概要を表、グラフとして公開します。今後は月に一度程度の更新を予定しています。
ただし、このデータはあくまで関連事業の延期や中止が「表明された」情報に基づいています。したがって、例年計画されている公演(定期公演・興行の類) が、そもそも公演予定を公表することもできないまま中止・延期された場合は含まれていません。これらの情報の収集・分析は別途検証したいと思います。
なお、収集している情報は全てすでにウェブ上で公開されている情報です(主な情報源は以下をご覧ください)。

注:「③-1、③-2 実演の中止・延期件数〈都道府県別〉」の数値に一部、誤りがありましたので修正いたしました(2020.07.14更新)

・ 主な情報源

独立行政法人 日本芸術文化振興会HP
歌舞伎美人HP(松竹株式会社が運営する歌舞伎公式HP)
公益社団法人 全国効公立文化施設協会HP(正会員のHP)
公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会HP(正会員のHP)
『邦楽の友』公式FB
紀尾井ホールHP
その他、実演家および実演家団体の公式HP、FB

 

① 関連事業の中止・延期件数〈形態別〉

 

– 新型コロナウイルス禍を明記した中止・延期は2020年2月末から現れはじめ、現段階で2021年2月の中止・影響を表明しているものもある。
– ②以下のグラフでは、実演を含む事業を取り上げた。

 

 

② 実演の中止・延期件数〈日毎の推移〉

– 土曜日・日曜日・休日は、もともと予定されていた実演が多いため、中止・延期件数も多いと見られる。
– 6月に入って中止・延期件数が減っているのはあくまで数字の見かけ上のことである。実態は4月7日の緊急事態宣言に伴って実演の計画・公表自体ができなく なったため、「中止・延期」情報としても表れていないに過ぎない。この時期を境に、伝統芸能に関わる人々への新型コロナ禍の影響が、数字上で表れにくい時 期に入ったと思われる。

 

 

③-1、③-2 実演の中止・延期件数〈都道府県別〉

– 東京都の件数が飛び抜けて多く、続く大阪府や京都府と大きな差がある。

 

 

④ 実演の中止・延期件数〈ジャンル別〉

– 出演者の連名から主たるジャンルを3つまで入力し、足し上げて集計した。
– ジャンルの区分は、文化庁による無形文化財指定の際の種別、名称を参考にし、あてはまるものがない場合はこれらに倣って追加した。
– 古典落語、歌舞伎の件数が多いのは、一つの公演を一定期間継続するためと見られる一方で、能楽や音楽は多くが一回公演なので、実演家、関係者、施設への影響が面的に広がっている可能性がある。
– 音楽はさらに幅広い分野に分かれるが、三曲(地歌・箏曲・尺八)、長唄、邦楽囃子への影響が目立つ。

 

 

⑤ 実演の中止・延期件数〈会場規模別〉


– 1001人以上の会場は歌舞伎、101〜500人の会場は古典落語の公演により件数が伸びていると見られる。

 

 

⑥ 実演の中止・延期件数〈国指定重要無形文化財の割合〉


– 国指定重要無形文化財の保持者・団体の認定には「各個」「総合」「保持団体」(現在、芸能の認定なし)がある。中止・延期された実演の出演者に各個認定の 者が含まれていれば「各個」、「総合認定」されている団体の構成員が含まれていれば「総合」、両者が含まれていれば「各個+総合」とした。
– 中止・延期件数の半数弱が、国から何らかの形で重要無形文化財の保持者・団体と認定されている実演である。