反射近赤外線画像では人物と水平線、遠景の山の稜線といった、この作品の構図の中で重要なものだけが認められます。構図の簡素さが印象付けられると同時に、この作品が、緑色や紫色を含む湖水や、深緑色から黄緑色まで微妙に変化する遠景の山など豊かな色彩に多くを負っていることがわかります。画家は油彩画にしていく過程で、顔の部分をやや理想化して描き、全体に青と緑を基調としながら微妙に異なる色彩を用いて豊穣な画趣をつくりあげています。モデルとなった照子夫人の回想によると、黒田が湖畔で制作しているところを見に行き、石に腰かけるように言われてそうすると、「明日からそれを勉強するぞ」と黒田が言って制作が始まったということです。周到に下絵が用意されたものではなく、モデルを前に、直接カンヴァスに向かうような制作であったことが、反射近赤外線画像にグリッドが認められないことからもうかがえます。

