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竹図

画面左下に、やや丸みのある石の一部が見え、その右から十本ほどの細い竹がまっすぐ上に伸びている。竹の幹や枝の屈曲は少なく、竹葉は幹の上部で花が咲いたように柔らかく広がり、まるで一叢の竹がさわさわと風に揺れているかのようだ。墨の濃淡で表現された竹の遠近や、一部のみ描かれた石も、画面の奥行きを感じさせよう。とりわけ印象的なのは、腰の柔らかい筆を用い、たおやかに変化をつけられた竹葉の描写で、しなりねじれる竹の葉先が見事に描き出されている。彩色は確認できず、墨のみで描かれているが、竹葉や石の濃墨部分に見られる墨のたまりが美しい。

右上に設けられた余白に、「擬董其昌 虚洞写」の款記と、「東成」と「春星氏」の二顆の白文方印が捺されるのも、竹と款記が対話しているような絶妙な配置である。董其昌(1555~1636)とは、中国の明時代を代表する文人画家で山水画をよくしたが、本図のような墨竹図は必ずしも董其昌の画風と一致しない。ただ、隠元隆琦(1592~1673)将来とされる伝董其昌筆「風竹図」が売立目録に何度か登場しており、それに類する作品が蕪村の着想源となった可能性もあろうか。柔らかな竹葉の描き方などは斬新で、やや近い中国絵画の表現としては馮起震(1553~?)や鄭燮(1693~1765)の作例が想起される。蕪村の具体的な中国絵画学習は今後の課題だが、いずれにせよ、当時の蕪村なりの董其昌理解をうかがわせる点で興味深い。なお、紙は全体に折れ跡が強く、上から47.5cmの部分に紙継ぎがある。

竹図 与謝蕪村筆
重要文化財
紙本墨画
一幅
縦157.9cm×横71.0cm
江戸時代 18世紀
妙法寺蔵