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カラー画像 第四面
第四面
カラー画像 第三面
第三面
カラー画像 第二面
第二面
カラー画像 第一面
第一面

妙法寺の旧本堂の中央、本尊が安置される内陣と、本尊を礼拝する外陣との間を仕切る襖絵として描かれた作例。妙法寺の蕪村作品群のうち、唯一当初の襖の形態で残る。重要文化財の指定では「蘇鉄図」の「附」だが、襖絵としての位置や大きさから、妙法寺の障壁画において最も中心となる作品であったとみられる。

図様は、右から第一面に土坡と樹木、第二面に箒を引く拾得を大きく配し、第三面には、沓を脱いで石の上に座って巻子を持つ寒山を、第四面には、線香の立てられた香炉と、いくつかの巨石を描く。全体に紙焼けが強いものの、彩色は、水墨を基本としつつ、人物の肉身部や樹木の幹、岩肌や土坡、背景の一部に代赭らしき赤茶色の淡彩が施されている。画中に蕪村の款記や印影はないが、他の妙法寺の作品群との比較から蕪村の作であることは疑いない。

昭和43年(1968)に、拾得の目が油性マジックで汚損され、寒山の顔も損傷したが、昭和46年(1971)の重要文化財の指定以降、二度の修理を受け、昭和57年~58年(1982~83)度の修理で油性マジックの汚損は除去された。

寒山拾得図 与謝蕪村筆
重要文化財
紙本墨画淡彩
襖貼付 四面
各縦197.3cm×横139.5cm
江戸時代 18世紀
妙法寺蔵

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復原画像 第四面
復原画像 第三面
復原画像 第二面
復原画像 第一面

昭和34年(1959)撮影 モノクロネガ写真 クリックで高精細画像が閲覧できます

昭和34年(1959)撮影 第四面
昭和34年(1959)撮影 第三面
昭和34年(1959)撮影 第二面
昭和34年(1959)撮影 第一面

東京文化財研究所では、妙法寺の蕪村作品群を三度撮影しており、その際のモノクロネガ写真が残されている。一度目の撮影は昭和34年(1959)10月で、二度目は昭和46年(1971)4月。妙法寺の蕪村作品群が重要文化財に指定されるのが昭和46年(1971)6月なので、二度目の撮影は指定に関わる調査・撮影であろうか。いずれにせよ、妙法寺の「寒山拾得図」と「蘇鉄図」に損傷・汚損の事故があったのが、昭和43年(1968)のことであったため、昭和34年(1959)に撮影されたこの写真には、損傷・汚損前の寒山と拾得の顔がはっきりと写されていたのである。

損傷で失われた寒山の顔が判明するのも貴重だが、拾得の顔も油性マジックによる汚損で当初の墨線はかなり見えにくくなっており、両者の顔が明らかになる点できわめて意義深い。同時に、二度おこなわれた修理の前の保存状態や、64年前の墨の階調が判明するのも重要で、現状の第三面の寒山の上部に見える鱗雲状の濃淡も、この段階では確認できない。また、第三面や第四面の四隅の破損部を見ると、屛風裏に貼られるような唐紙らしき文様のある紙が本紙の下から垣間見えている。

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現状 近赤外線画像 第四面
現状 近赤外線画像 第三面
現状 近赤外線画像 第二面
現状 近赤外線画像 第一面

現状のカラー写真では、紙焼けや油性マジックによる汚損の影響で、オリジナルの墨線や墨色が非常にわかりにくくなっているが、近赤外線写真では、そうした墨の表現が、再現的に、より鮮明に確認できる。

とりわけ、第一面では樹葉の濃淡、第二面では拾得の目や口の周囲、拾得の首、拾得の衣の墨面の階調、拾得の袴の線、地面に打たれる点苔、第三面では寒山の髪、寒山の衣の階調、岩の変化に富んだ皴の筆触、第四面では岩肌に施された墨面の階調、岩肌の激しい筆勢、点苔の濃淡のバリエーションなどが、蕪村の当初の筆致や墨の使い方などをうかがわせ、きわめて貴重な画像情報となる。

また、一筆の中の墨色の違いにより、後世の補筆や修理による補筆も見えやすくなるが、修理の際の補紙に施された補筆以外に、ほとんど補筆を確認できないため、オリジナルの墨線がかなり残されていることも明らかとなる。

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復元襖

昭和34年(1959)撮影のモノクロ写真と、現状のカラー画像を合わせ、現代の画像形成技術を用いて損傷を受ける前の襖絵を復原したものが、この復原襖である。

まず、現在の「寒山拾得図」を撮影した高精細のカラー画像に、モノクロ写真の輪郭線を重ね合わせ、損傷前の復原画像を形成したうえで、実際の作品と同様の紙継ぎになる大きさで和紙に画像を出力するところまでを東京文化財研究所でおこなった。

一方、妙法寺が担当したのは、現在の本堂に建て込めるように襖に仕立てる事業である。襖に仕立てる作業は、国宝修理装潢師連盟加盟工房である株式会社修護がおこない、襖の下地は、国指定文化財に用いられるものと同等の仕様、技術、材料で施行し、引手金具もオリジナルの金具を模造して使っている。また、建具調整には黒田工房の臼井浩明氏の協力を得て、本堂に実際に襖を建て込むための建て合わせや微調整を入念におこない、令和4年(2022)11月22日、無事に復原襖を妙法寺本堂へ奉安することができた。

実際に襖として建て込まれると、その大きさや表現は圧巻で、まるで蕪村の筆遣いや絵画空間が目の前によみがえったかのようである。このように古いモノクロ写真を用いた絵画の復原は東京文化財研究所としても初の試みであり、90年以上蓄積されてきた膨大なアーカイブ活用の今後の指標ともなるだろう。

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