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寿老人図

寿老人は、中国の道教で信仰された神仙の一人で、南極老人星(カノープス)の化身。南極老人星は天下泰平のときしか見えないとされ、のちに星を神格化した寿老人が長寿や幸福の象徴となった。酒好きで、背が低く、長い頭と、長い髭をもつ独特の容姿で表現される。日本では、そうした図様が移入され、七福神の一人としても信仰された。

本図はまさしく、背が低く、長い頭部に、長い髭を生やした姿の寿老人。両手は袖の中に入れて拱手し、左下の石にもたれて寄りかかる。細い目で微笑むような表情は、何とも愛らしい。鼻や耳は簡潔な筆致ながら的確で、眉毛や髭を描くかすれた筆も最少の筆致で要を得ている。衣の輪郭線を勢いよく描く濃墨と、袖口や裾のにじんだ淡墨との対比も絶妙である。石の上に面的に施された幅広の筆触も、独特の質感や立体感を見事に演出する。彩色は、寿老人の顔に代赭らしき赤茶色の淡彩が施されるのみだが、酒を飲んだ赤ら顔のようにも見えよう。

款記は、蕪村作品としては用例の少ない「虚洞写」で、その下に「潑墨生痕」と「三果居士」の白文方印を捺す。「寒山拾得図」の衣紋線などと同質の迷いのない墨線は、本図が一気呵成に描かれたことを物語り、長寿や幸福の願いが込められているのだろう。蕪村は寿老人を新年にしばしば描いており、明和5年(1768)新春の作とも考えられるが、あるいは襖絵を描き終えた蕪村が、妙法寺の檀家総代で蕪村の俳諧仲間でもあった菅暮牛(1726~99)や妙法寺のために、讃岐滞在の御礼として本図を捧げたのかもしれない。

寿老人図 与謝蕪村筆
重要文化財
紙本淡彩
一幅
縦110.1cm×横40.4cm
江戸時代 18世紀
妙法寺蔵