なぜ無形文化遺産と SDGs ?
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉は、今や社会の様々な局面で目にしますが、実は文化遺産の保護においても重要なキーワードとなっています。例えばSDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」のターゲット4は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する」と定められています。しかし文化遺産とSDGsの関連はそれだけにとどまりません。例えば文化遺産を通じた歴史・文化の教育は目標4「質の高い教育をみんなに」と関連しますし、文化遺産を観光に活用することは目標8「働きがいも経済成長も」に関連します。
近年では「生きている遺産(リビングヘリテージ)」と呼ばれることの多い無形文化遺産は、とりわけ SDGsとの関連が大きいといえます。なぜなら無形文化遺産は今を生きている、わざの伝承者や地域コミュニティの人々によって担われており、彼らが持続的に活動していくためにはSDGsの達成が不可欠だからです。
2024年にはユネスコの「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」への記載のための提案書の書式が変更され、「持続可能な開発への貢献」を記載する欄が設けられました。すなわちその無形文化遺産が代表一覧表に記載されることによって、例えば「質の高い教育」や「ジェンダー平等」にどのように寄与するかという説明が求められるようになったのです。このことは、無形文化遺産がSDGsの達成に積極的な役割を果たすことが期待されていることを意味しています。
こうしたことを踏まえ、ここでは私たち東京文化財研究所がこれまで取り組んできた無形文化遺産の調査研究を、SDGsという観点からふりかえってみたいと思います。
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