漆は古くは縄文時代から塗料として用いられていましたが、日本人は神聖なものにも、身の回りの器物にも、この堅牢で美しい光沢のある漆を用いて数多の工芸品を生み出してきました。英語で漆をJapanと言うように、大航海時代以降は、ヨーロッパの王侯貴族は日本の漆工品を盛んに収集し、愛玩していました。日本国内で使用されていた形式を保持したまま海外で収蔵されている漆の作品もありますが、渡来した外国でその形や用途が改変されたもの、また日本国内で輸出用に作られた南蛮漆器も海外の美術館・博物館で多く収蔵されています。

漆は堅牢な素材ですが、使用による損傷や、経年劣化を受けている作品も多く、所蔵館で漆工品の修復を専門に行う技術者はほとんどいないため、深刻な状態になっている場合も少なくありません。この事業では数々の漆工品の修復を行ってきました。今回取り上げるのはごく一部に限られていますが、いずれも海外に所蔵される日本の漆工品として、個性豊かな作品ばかりです。漆黒の背景に、金蒔絵によって華麗に文様が表された作品は、当時のヨーロッパの人々の目を驚かせたことでしょう。また夜光貝などを用いて装飾する螺鈿の技法は、漆芸の伝統技法のひとつで、その繊細な素材の輝きを表現に取り入れています。

住吉蒔絵文台画像
「住吉蒔絵文台」
1基 17世紀 ビクトリア&アルバート博物館 平成20年度修復
桜蒔絵器局画像
「桜蒔絵器局」
1基 17-18世紀 ケルン東洋美術館 平成9・10年度修復
花樹鳥蒔絵螺鈿箪笥画像
「花樹鳥蒔絵螺鈿箪笥」
1基 16-17世紀 アシュモリアン美術館 平成21・22年度修復
花鳥紋章蒔絵楯画像
「花鳥紋章蒔絵楯」
1枚 17世紀 アシュモリアン美術館 平成20年度修復

作品紹介