華やかな絵画がある一方、墨の濃淡で全てを表そうとする水墨画も、中世以来の日本絵画の重要なジャンルの1つです。墨の粒子はひじょうに細かいため、微妙な濃淡や諧調を表すことができます。水墨画は色彩が施されていない絵ではなく、色彩がなくても対象物を描写することのできる表現技法と言うことができるでしょう。水墨画も中国を源流とし、それに学び倣いながら、日本でも数多くの水墨画作品が制作されました。

ここでご紹介する「出山釈迦図」は釈迦が6年にわたる苦行の末、肉体を苛むことの無益さを悟り、山から出てくる様子を描いたもので、室町時代の禅僧・仲安真康の作品として著名なものです。太く淡い墨線で横向きの釈迦の衣の輪郭を表し、鋭い濃墨の細線を目や口元などに用いています。筆数を極度に抑えて省略することにより、釈迦の神聖性や脱俗した様子が巧みに表されています。

また仲安真康に学んだとも伝えられる室町時代の禅僧・賢江祥啓による山水画は、見晴らしのよい水辺、大きな岩山、その麓にかかる橋の上を僧侶と従僕が歩む様子を表したもので、爽やかな空間が巧みな水墨技法で表されています。この作品は、室町 将軍家の中央画壇で正統としていた中国の画家・夏珪の様式に強く影響を受けたものであると考えられます。

出山釈迦図画像
「出山釈迦図」
一幅 15世紀 ケルン東洋美術館 平成23年度修復
山水図画像
「山水図」賢江祥啓筆
一幅 15世紀 ケルン東洋美術館 平成23年度修復

作品紹介