- 概要
- 文化財害虫ニュウハクシミ
- 分布域拡大の状況
- ニュウハクシミの防除
文化財害虫ニュウハクシミは、2022年に国内で初めて生息が確認され、当時5都道県だった分布域が、2025年9月末時点で19都道府県まで拡大しており、全国的に対応が求められている状況にあります。
このような状況を踏まえ、このたび、東京文化財研究所では、全国の博物館等で活用可能な防除用キットを制作しました。令和7年11月4日より、以下のURLから申し込みを受け付け、ニュウハクシミが確認された博物館等に対して防除用キットを無償で提供いたします。
受付開始日:令和7年11月4日(火)
申込先:東京文化財研究所ウェブサイト内 特設ページ
https://www.tobunken.go.jp/ccr/pest-search/taisho_mesod/application_templates.html
防除用キットは、ニュウハクシミが効率よくベイト剤(毒餌)を食べるよう、歩行(侵入)しやすいクラフト紙を選定するとともに、光を嫌うシミが入りやすいように暗部が確保された構造とし、加工作業が容易で来館者に目立たなくするなど、博物館等での実用性を重視して設計しました。
ニュウハクシミは、古文書などの紙を食害する外来種の文化財害虫です。日本では2022年に初めてニュウハクシミの生息を報告しました(文献1, 2)。
外見上は乳白色(光沢のある鱗と半透明な体から白く見える)をしており、孵化後、1年弱で成虫となり、産卵可能で、1度に10個ほど年2回産卵することが報告されています(文献3)。
ニュウハクシミの爆発的ともいえる繁殖力の強さは、「単為生殖(単独の性で子孫を生み出す生殖)」に起因することが指摘されており、東京文化財研究所での個別飼育によって単為生殖が確認されました。
1個体から1年後に約130個体、3年後には約2万個体にまで殖えるため、博物館資料や梱包資材等に付着し、資料の移動にともなって分布域を広げていると考えられています。
2022年では5都道県だった分布域が、2025年9月末時点で19都道府県にまで拡大しています。ニュウハクシミによる文化財への直接的な被害はこれまでに報告されていませんが、徐々に分布域が拡大しているため、早急な対応が必要です。
【2022年時点】5都道県(北海道、宮城県、東京都、福岡県、長崎県)
【2025年9月末時点】19都道府県(北海道、岩手県、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、岐阜県、石川県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、岡山県、島根県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、熊本県)
ニュウハクシミは、一旦施設に定着してしまうと繁殖力が強いため、防除が非常に困難となります。そのため、早期発見・早期対処が極めて重要と考えられています。
これまでの研究で、ニュウハクシミは蟻用のベイト剤によって飼育個体群が死滅することが確認されています(文献4)。さらに、10℃以下、または相対湿度43%以下で死滅するという情報も得られています(文献5)。薬剤では、ピレスロイド系の殺虫剤が有効であり、ニュウハクシミが歩行する壁際の塗布で効果があったことが報告されています(文献6)。
ニュウハクシミの発見以降、東京文化財研究所では、ニュウハクシミの生態等に関する研究を進めるとともに、全国の博物館等から送られてきた個体の確定診断を行い、早期発見の支援をしています。また、「文化財害虫検索サイト」を制作し、ニュウハクシミの同定を支援できるよう、ニュウハクシミの画像情報のほか、形態的な特徴、予防と管理上の注意点、最新の研究成果等を公開しています。
ニュウハクシミと疑われるシミが確認された場合、東京文化財研究所保存科学研究センターまでご連絡ください。
【関連する文献等】
- Shimada et al.: New records of Ctenolepisma calvum (Ritter, 1910) (Zygentoma, Lepismatidae) from Japan, Biodiversity Data Journal, 10, e90799, 2022
- 小峰ら: 文化財害虫とその対処, 月刊文化財, 709, 7-11, 2022
- Watanabe et al.: Development and reproduction of a Japanese strain of Ctenolepisma calvum at room temperature, Insects, 14(6), 563, 2023
- 小野寺ら: マダラシミおよびニュウハクシミに対するベイト剤の殺虫効果, 保存科学, 62, 193-198, 2023
- 島田ら: 異なる温湿度環境におけるニュウハクシミの生存率の検討, 保存科学, 63, 131-137, 2024
- 渡辺ほか: 残効性ピレスロイド系薬剤の使用によるニュウハクシミ対策の一事例, 保存科学, 63, 139-144, 2024
〔担当〕
東京文化財研究所 保存科学研究センター
生物科学研究室(島田潤・佐藤嘉則)
電話:03-3823-2268
E-mail:seibutsu_tobunken@nich.go.jp