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カンボジア・アンコール・タネイ寺院遺跡東門の修復
エントランスロビーパネル展示:2020年7月4日~ (終了しました)

 東京文化財研究所(東文研)とアンコール・シエムレアプ地域保存整備機構(アプサラ機構)との文化遺産保護に関する協力事業は、2001年の開始以来、ほぼ20年にわたる長い歴史を有しています。これまでに様々な活動を行ってきましたが、その対象は世界遺産アンコール遺跡群の一部であるタネイ寺院遺跡で一貫しています。近年、東文研とアプサラ機構はタネイ寺院遺跡の良好な保存と将来に向けた持続的発展を目標とした整備を進めることで合意し、2017年のアンコール遺跡救済国際調整委員会に同遺跡の保存整備計画を共同提案し、承認を得たところです。

 これまでのアンコール遺跡群における修復は主に、劣化や破損、崩落が進んだ個々の建造物を創建当時の姿に復元することに注力してきたため、遺跡の価値評価に基づく包括的な保存整備の計画性においては配慮に欠けている面があったことも事実です。このような問題意識から、タネイ寺院遺跡の保存整備計画では、基本的な指針として、(1)自然環境と調和した現在の遺跡の雰囲気を維持すること、(2)アンコール期の寺院の構成と特徴が来訪者によく伝わるようにすること、(3)遺跡を安全に楽しむことができるようにすること、の3つの目標を掲げました。

 タネイ寺院遺跡保存整備計画に基づく協力事業は、アプサラ機構が保存整備の実施主体となり、東文研の役割は調査研究の観点からの技術的支援に止めるところに特徴があります。同事業は、今後アプサラが単独で遺跡の保存整備を実施していくためのモデルケースとなることを想定しており、両組織の綿密な連携による修復方針や作業計画の検討と、国際調整委員会や同アドホック専門家グループによる助言や勧告のもとで進めることを前提としています。

 昨年からは同事業における保存整備の一環として、アンコール期の寺院正門である外周壁東門の解体修復工事に着手しました。この工事はアプサラ機構が本格的な建造物修復の実施を担う初めてのケースで、今後の修復事業の有益な参考資料となるように、さまざまな作業や調査に応じた詳細な記録を作成することが求められており、東文研には我が国に蓄積された建造物修復の知見に基づく支援が期待されています。2019年は、解体着手前に現状記録や発掘調査、建物周辺および内部の崩落石材等の収集と整理を行い、その後、屋根および壁の解体をほぼ予定通りに終えることができました。ここでは、その成果の一部をご紹介します。これを機会に建築遺産の保存について少しでも関心をもっていただければ幸いです。

令和2年(2020)6月
独立行政法人国立文化財機構
東京文化財研究所
(写真撮影:城野誠治)
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