2026年2月24日から27日にかけて東京および京都で開催された「スーダン文化遺産保護専門家会合」での議論に基づき、参加者は、スーダンの文化遺産保護に向けた今後の協力を導くため、以下の提言を示す。これらの提言は、スーダンの文化遺産をスーダン自身の視点とスーダン人専門家の主体性に基づいて理解し支援するという基本原則に立脚している。
- 文化遺産の緊急保護と記録化の強化
- 1.1 2025年に国立古代遺跡博物館(NCAM)から正式に提出された要請に基づき、戦争の影響を受けたゲジラ博物館およびハリファ・ハウスの緊急保護と被害評価を最優先とする。すべての緊急措置は、1999年古代遺跡保護令に基づく法的権限と中心的役割を有するNCAMの主導のもと実施される。
- 1.2 記録化作業は、収蔵品、建物、展示空間の現状を記録するためのデジタルデータベースの構築に重点を置く。
- 1.3 記録化活動はスーダン人専門家が主導し、NCAMが主要な調整機関となる。日本側パートナーは、技術助言、機材提供、支援、データ整理等を必要に応じて行う。
- 1.4 デジタルデータベースは、将来の復旧計画、国際協力の調整、長期的保存の基盤として活用される。
- 博物館および文化機関の復旧支援
- 2.1 戦争の影響を受けたゲジラ博物館およびハリファ・ハウスの復旧計画は、構造安全性の確保、収蔵品保護、展示環境改善を中心に支援される。
- 2.2 復旧プロセスでは、地方当局および地域コミュニティの参加を促し、両館を文化再生の拠点として位置づける。
- 2.3 すべての復旧支援は、計画策定、優先順位付け、意思決定を統括するNCAMと緊密に連携して実施される。
- 2.4 UNESCOスーダン事務所は、保存計画、リスクに配慮した復旧戦略、文化遺産保護枠 組みに関する技術的専門性を提供し、国内機関と日本側専門家の橋渡し役として調整を担う。
- スーダン人専門家の能力強化と研修機会の拡充
- 3.1 保存科学、博物館運営、文化遺産防災、デジタルアーカイブ・データベース開発等の分野で研修を拡充し、研修ニーズと優先分野はNCAMが指導する。
- 3.2 文化庁、東京文化財研究所との協力を強化し、持続可能な研修枠組みを構築する。
- 3.3 研修はスーダンの要請と現場の実情に沿い、特にデジタル記録化やデータ管理に関する実践的技能を重視する。
- 3.4 UNESCOスーダン事務所は、技術助言、専門家交流の促進、国際基準との整合性確保を担いながら、スーダンの優先事項に基づく研修を支援する。ICESCOもまた、同機構の遺産プログラムおよび専門家ネットワークを通じて能力強化を支援することが期待される。
- コミュニティ主体の文化遺産保護の推進
- 4.1 NCAMの制度的権限とは独立したカッサラ・コミュニティピースパークなど、コミュニティ主導の取り組みを重要なモデルとして位置づける。
- 4.2 協力は、日常的な文化実践、伝統技能、地域文化のアイデンティティの保護を重視する。
- 4.3 文化遺産活動は、社会的包摂、コミュニティのレジリエンス、平和構築に寄与する。
- 国際・国内機関との協調的連携の強化
- 5.1 UNESCO、ICESCO、JICA、文化庁、東京文化財研究所との協力を継続し、補完的で重複のない支援を確保する。
- 5.2 UNESCO「スーダン緊急行動計画(2025–2027)」の実施を支援し、文化遺産保護、違法取引対策、文化機関・市民社会の能力強化を含む優先行動を推進する。また、スーダン当局が略奪・散逸した文化財の回収に成功している点を評価し、その指導力と文化遺産保護への取り組みを称える。
- 5.3 UNESCOスーダン事務所は、国内に常駐する実施機関として、国際支援をスーダンの優先事項に沿って調整し、重複を回避し、国家復興戦略との整合性を確保する役割を担う。NCAMは国家レベルの調整を行い、すべての国際協力がスーダンの文化遺産保護の優先事項と制度枠組みに沿うよう確保する。
- 5.4 NCAM、ICESCO、東京文化財研究所の三者間での覚書(MoU)が検討されており、今後の具体的協力の基盤となることが期待される。
- 5.5 国際協力の調整メカニズムを検討し、スーダンの優先事項との整合性を確保する。NCAMは文化遺産関連協力の中心的な国内カウンターパートとして機能する。
- 5.6 日本国外務省との連携を進め、国際的な資金調達や政策支援の可能性を探る。
- スーダンの視点と主体性に基づく協力の確保
- 6.1 すべての協力は、スーダン人専門家、機関、コミュニティの主導性を尊重し、スーダンの文化遺産をスーダン自身の視点から理解するという原則に基づいて実施される。この点で、NCAMの制度的リーダーシップは、協力がスーダンの優先事項と文化的文脈を反映するために不可欠である。
- 6.2 協力枠組みは、外部からのトップダウン型アプローチを避け、スーダン側の優先事項と意思決定に基づいて形成されるべきである。
- 6.3 すべての取り組みは、スーダンの文化的文脈、歴史的背景、地域的多様性を十分に考慮して設計される。
- 今後の協力枠組みの構築
- 7.1 本会合で得られた知見を踏まえ、継続的な専門家会合またはワーキンググループの設置を検討する。
- 7.2 スーダン人専門家と日本人専門家の間で、進捗状況の把握と今後の活動調整のため、定期的な情報交換を促進する。
- 7.3 文化遺産保護における長期的な協力関係を、継続的な取り組みを通じて追求する。
参加者は、これらの提言に基づき、スーダンの文化遺産の保護と復興に向けた協力を推進する決意を改めて表明する。
2026年2月27日
日本・大阪
参加者
- Dr. Abdelrahman Ali(UNESCO スーダン事務所 文化ユニット部長/元NCAM 局長)
- H.E. Mr. Khalid Fathalrahman(ICESCO 文明間対話センター長)
- Dr. Shadia Abdrabo(NCAM 博物館部門 副部長)
- Mr. Elnzeer Tirab(国立民族学博物館 館長)
- H.E. Mr. Elrayih Mohamed Elawad Hydoub(在日スーダン共和国大使)
- Mr. Ali Mohamed(在日スーダン共和国大使館 参事官)
- 石村智(東京文化財研究所 無形文化遺産部 部長)
- 二神葉子(文化財情報学)/国立文化財機構東京文化財研究所文化財情報資料部文化財情報研究室長
- 千葉毅(考古学・保存科学)/国立文化財機構文化財防災センター研究員(兼)国立文化財機構東京文化財研究所保存科学研究センター研究員
- 関広尚世(考古学)/京都市埋蔵文化財研究所調査研究技師主任
- 清水信宏(建築史学)/北海学園大学工学部建築学科准教授
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