開催趣旨
   文化財を広く、そして後世に伝えることは、文化財にたずさわる人々すべての使命です。とはいえ、文化財のありようによってその伝え方はさまざまに変化します。文化財が有形のモノであれば、基本的にはそれが朽ちることのないよう、現状を極力維持しようとすることでしょう。しかしそのモノが不幸にして破損したり、まったく失われたりした場合は、修復や復元といった手段により旧状の再現に努めることもあれば、残された記録や遺跡をたよりに往時の姿を偲ぶにとどめることもあります。また対象が無形文化財であれば、モノならぬ技や芸が人から人へと伝承されますし、いっぽうで映像などに記録されることで、そのありさまが資料として後世に伝えられていきます。
 おそらく文化財にまつわるそうした営為に通底するのは、そこに“オリジナル”の姿を想定し、伝えようとする思いでしょう。モノの現状を維持するにしても、それは現状がその“オリジナル”な姿を宿していると判断するからにほかなりません。ただ、いざ“オリジナル”の姿を確定しようとすると、それはけっして容易なことではありません。復元によるイメージは、しばしば何を根拠とするかによってさまざまな立ちあらわれ方をしますし、そもそも文化財自体が時代の要請に応じて姿を変えていくことも多く、たとえば成立当初といった過去の一時点に固執するのでは、これまで文化財が歩んできた歴史的な重みを見失う恐れもあります。
 文化財をあたかも生命体のように、歴史的に連続する動態ととらえるなら、折々に文化財をめぐって生み出される資料を累積させてはじめて、その“オリジナル”イメージは像を結ぶのかもしれません。しかし往々にして残された資料は断片的であり、それをもとに浮かび上がる限られたイメージにわれわれはつい囚われてしまうものです。文化財の断片化された記録から、文化財によせられた人々の営みの層としての記憶へ。日々文化財に向きあい、その保存や記録にいそしむ文化財アーカイブの立場から、“オリジナル”を志向しつつ、いかに文化財を生き生きと伝えられるのか、このシンポジウムを通して考えてみたいと思います。
   
  第1セッション:モノ/“オリジナル”と対峙する
博物館や美術館に並ぶモノを目の前にしながら、われわれはそこに何を期待し、見出そうとするのでしょうか。“オリジナル”を宿すモノと真っ向から対峙するという、文化財に対する基本的な姿勢の意味を問い直します。
  第2セッション:モノの彼方の“オリジナル”
現存するモノや資料をよすがとして、われわれはしばしば“オリジナル”のイメージを想定しますが、その具体像は必ずしも一定ではありません。そのような揺らぎの中でなお“オリジナル”を希求する心性に迫ります。
  第3セッション:“オリジナル”を伝えること
文化財との対話は資料を生み、その資料は“オリジナル”のイメージを支え、さらに文化財そのものの保存へとフィードバックされます。そのためのさまざまな試みを通して、文化財アーカイブのありかたを探ります。