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特集陳列 写された黒田清輝

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  会期:平成19年11月15日(木)~平成20年5月31日(土)
場所:黒田記念館 2階展示室
 
 
大礼服の黒田清輝(1914年)
 平成18年度に、黒田清輝夫人照子のご遺族にあたられる金子光雄氏より、同氏が永らく保管してきた黒田清輝関係の写真等、208件が東京文化財研究所に寄贈されました。大半は、黒田清輝の暮らしぶりを知る貴重なポートレート写真などですが、黒田夫妻が使用していた生活具も含まれています。未公開の写真もあり、黒田清輝という画家をより深く理解するための貴重な資料です。当研究所企画情報部は、それぞれの写真の撮影時期、由来等の特定のための調査をする一方、整理作業をすすめて参りました。
 今回は、その成果として、比較的大判の写真23点を選び公開いたします。寄贈写真はすでに原板が失われており、いずれもオリジナルな焼付写真であるため、公開にあたりましては、オリジナル写真の風合いを保ちつつ、原寸大に再現した画像を展示いたします。これは、写真資料の保存公開という目的のもとにすすめられたデジタル画像形成技術の開発研究の成果の一部でもあります。
 展示作品とあわせて、黒田清輝の芸術に、さらに親しんでいただく機会となれば幸いです。

黒田清輝ポートレート(大正中期)
明治45年3月 東京美術学校西洋画科卒業記念写真
(前列右から3人目が黒田清輝)
 
古写真の複製作成にあたり
 寄贈された写真は、いずれも貴重な歴史的資料であるため、オリジナルプリントは劣化を防ぐ為に公開を避け保存しています。そのため、公開にむけてオリジナルに代わる複製を作成することにいたしました。
今日のデジタル技術では、平面的な写真の複製は簡単に思えるかもしれません。しかし、機械的な複写では、すべてが明瞭に記録され、微妙な雰囲気の再現は困難です。今回の複製の作成にあたっては、オリジナルの持つ質感、画像の滲み、汚れなど、古写真の持つ独特な雰囲気と存在感の再現を心がけました。
 わたしたちが古写真を目にしたとき、思いおこされる「記憶」、あるいは歴史への「想像力」といったものは、人間の豊かな感性によって生まれるものだと思われます。今回展示公開する写真は、いずれも大判であり、公私にわたり記念的な意味あいを持つものとおもわれます。したがって、その時々の写された人の「思い」、写した人の「思い」、またそれを受け継ぎながら保存してきた人の「思い」が重なっているといえます。そうした一枚の写真にこめられた様々な「思い」を伝えるために、今回はプリントの複写にとどまらず、貼られた台紙、しかもその汚れや傷みまでも再現し、「オリジナル」がもつ意味について考えました。「写真」は単に技術や機械が作り出した産物ではなく、写された時代を伝える貴重な資料であり、同時に人間にとって豊かな表現であるといえます。そこに現在のわたしたちが何を見出し、何を感じるのか、そうした点をふくめてご覧いただけたらと願います。
東京文化財研究所
企画情報部
 
黒田清輝とマリア・ビョー一家
(1890<明治23>年頃)

複製作成:城野誠治、鳥光美佳子
本展示は、企画情報部の研究プロジェクト「高精細デジタル画像の応用に関する調査研究」と「近現代美術に関する総合的研究」の共同研究の成果の一部です。
©独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所