1890.07.18
七月十三日附 パリ發信 母宛 封書
(前略)わたしハこのごろハやつぱりなかニをりましてゑをかいてをります このごろかきかけてをりますゑハせんじつ申てあげましたおんながへやのなかでほんをよんでをるゑです これはあめのふるときかまたひがあたつてあつくてそとでゑをかくことのできないときニかくつもりでかきはじめましたところこないだぢゆうハあめばかりにてまいにちまいにちそのゑばかりかきましたけれどもあまどをしめてうすぐらいところでかくもんですからなかなかはかどらずまたなかなかできあがりませんよ まだすくなくも二十日や一月ぐらいはかゝるだろうとぞんじますよ おかねばつかりかゝつてまことにこまりますがこのごろハこないだついたかわせのおかねがございますからあんしんしてべんきようをいたしてをりますよ この十四日のひハこの$ふらんす$のおまつりにて$につぽん$でゆハゞ$てんちようせつ$とでもゆうようなおまつりですから$ぱりす$などにてハよるもひるもおゝさわぎをいたします(中略) ちようど十二日のひニ$くめ$さんがまいりましてそれから十三日の日ニ$くめ$さんと一しよにこゝから八りか九りばかりある$ふろり$と申ところニをりますともだちの$あめりか$じんにて$ぐりひん$と申やつのところにあすびにいきました その$ぐりひん$というやつはさくねんの五月か六月ごろニ一しよニいなかニいつていたやつにてまことニかまわないよいやつです(中略) それから$のりあいばしや$ニのりまして$むらん$といふところまでまいりました こゝからきしやニのりまして$ほんてぬぶろう$と申ところニつきました(中略) それからうちにかへつてからがたいへんでした そのやどやニへやが一つきりハあいてるのハなくそれですから$くめ$こうと一しよにねました(中略) そうしてわたしハ$くめ$さんとその$ほんてぬぶろう$にあるむかしのいじんの$てんしさま$のおすまいニなつたと申おみやをけんぶついたしました ずいぶんりつぱなものでございます これどもこのごろはきれいなものをみつけたのかなんだかしれませんがどんなきんぎんざいくのものをみてもちつともかんしんいたしませんよ かへつてきんぎんのたくさんついているものハいやです
わたしハとうとうひやくしようのうちをかりまして一さくばんからこゝにねとまりをいたしてをりましてやどやにハたゞめしくいばかりニいきます よほどこのほうがきらくでございます
まづこんどハこのかげんでやめませう めでたくかしこ
わたしハとうとうひやくしようのうちをかりまして一さくばんからこゝにねとまりをいたしてをりましてやどやにハたゞめしくいばかりニいきます よほどこのほうがきらくでございます
まづこんどハこのかげんでやめませう めでたくかしこ
母上様
新太
せつかくおからだをおだいじニなさいまし