無形文化遺産の防災
エントランスロビーパネル展示:2017年3月29日~(終了しました)

(写真撮影:城野誠治)
 東日本大震災を契機として、「文化財の防災」が注目されるようになりました。けれども、人が伝える「無形文化遺産」の防災となると、未だその概念も方法論も確立していません。
 無形文化遺産の中でも民俗芸能や祭礼といった分野は、災害後の地域復興に大きな役割を果たすことがわかりました。被災した故郷を思う心のよりどころとして、地域コミュニティが再び活気を取り戻すための手段として、無形文化遺産の復興は注目されました。災害後の復興を見据え、「無形文化遺産の防災」を考えることは重要です。
 一方、工芸技術や民俗技術など、災害を機に消失せざるをえない状況に追い込まれる無形文化遺産もあります。後継者不足や環境の変化など、日常的に消失リスクがあることも事実ですが、それらが一斉に表面化するのが災害時です。こうした無形文化遺産が人知れず消えることがないように、関係者をつなぐネットワークを構築することや、その技術を伝えるための記録を作成することも、「無形文化遺産の防災」といえましょう。
 そして、人々が伝えてきた伝統的な「知」もまた、無形文化遺産です。人々が災害にどのように立ち向かってきたのか、環境をどのように維持してきたのかという知識を見直すことも、「無形文化遺産の防災」につながるのではないでしょうか。
 私たちは、このようなさまざまな視点から「無形文化遺産の防災」を考えていこうとしています。今回の展示では、その一端をご覧いただきたく思います。
 調査・研究にご協力いただきました関係各位に深く御礼申し上げますとともに、被災された方々の復興を心より願っています。
東京文化財研究所 無形文化遺産部


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