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選定保存技術 -漆の文化財を守り伝えるために
エントランスロビーパネル展示:2016年3月24日~(終了しました)






(写真撮影:城野誠治)
 文化財は長い歴史と豊かな文化の中で育まれた人の営みの全てを具体的に示すものです。文化財を守り、後世に伝えていくためには、文化財そのものだけでなく、文化財を保存修復する技術、それに用いられる材料や道具の製作技術なども保存・継承されていく必要があります。日本ではこうした技術が国の選定保存技術として認定され、保存・保護の取り組みが行われています。平成27年(2015)7月現在、選定保存技術の選定件数は71件、保持者数57名、保持団体数31団体となっています。選定保存技術には、建造物、美術工芸品など有形文化財に関するものと、演劇、音楽、工芸技術など無形文化財に関するものがあります。文化遺産国際協力センターでは平成26年度(2014)より選定保存技術に関する調査研究を進めており、それぞれの技術や製作の工程、現状の課題などについて情報収集と写真撮影を行っています。その成果公開の一環として、カレンダーや報告書を作成し情報発信を行っています。
 このロビー展示では、漆に関する選定保存技術について取り上げ、有形文化財が無形の技術によって守られていることをご紹介致します。かつて漆は日本全国で栽培・採取されていましたが、比較的安価な外国産の漆が増え、現在日本国内に流通している漆のうち、国産漆は数%しかありません。また生活習慣の変化などにより漆の産業全体が低迷し、こうした状況は、漆の文化財の保存修復においても深刻な影響を与えつつあります。しかしながら蒔絵は日本を代表する工芸品であり、国内はもちろん、諸外国の美術館等でも数多くの漆工品が現存しています。漆に関わる保存修復技術を継承していくことは、我が国の責務と言えます。
 現在、漆掻き用具を製作する技術、漆掻きの技術、漆を精製する技術、漆の使用の際に用いる漆濾紙を製作する技術、漆塗りに使う漆刷毛を作る技術、そして蒔絵などの加飾や細部に漆を塗るために使われる蒔絵筆を作る技術などが選定保存技術に選定され、それぞれ選定保存技術保存団体・選定保存技術保持者が認定されています。いずれの技術も高度に専門化された特殊技術で、適切な調査と記録を行い、情報共有を進める必要があります。
 調査・撮影にご協力賜りました関係各位に感謝申し上げますとともに、なおいっそうのご理解・ご協力をお願い致します。

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