植田憲、青木宏展(千葉大学デザイン文化計画研究室)

※ 本報告は『箕 自然を編む知恵と技』のp.241-246を抜粋し、新たに動画を加えたものです

1. はじめに

本研究は面岸箕を対象に、それを用いて大豆、アマランサスの風選を行う際の動作のデータをモーションキャプチャにより取得・保存するとともに、箕振りを行う人の動きと箕の動きをデータ上で解析し、そこに見られる動きの特徴の解析を行うことを目的としたものである。

2. 面岸箕による風選の動作のデジタル記録

(1)概要

面岸箕による風選動作のデジタル記録について、概要は以下の通りである。
日時:2022年(令和4年)11月10日
取得場所:岩手県下閉伊郡岩泉町門字下見内川
動作の実演者:内村洋子氏

(2)使用機材と取得環境

まず、モーションキャプチャシステムにはMotion Analysis社 の MAC3D Systemを用いた。本システムは、マーカ(図1)をキャプチャカメラ(Motion Analysis社 / Raptor-H、図2)が認識し、記録するというものである。本データ取得においては、キャプチャカメラ計6台を計測空間周囲に配置し、全方位からの記録を行った(図3)。なお、風選の動作を取得するにあたり、① 実演者の身体関節部の動作、および ② 箕の動作の取得を行うこととし、以下の各部位にマーカを設置した。

実演者の右側肩部、左側肩部、右肘関節部、左肘関節部、右手首関節部、左手首関節部、中央腰部(状況に応じて右腰部、左腰部)、右膝関節側部、左膝関節側部、右足趾部、左足趾部、右踵部、左踵部、および箕の腕木右先端部(ミサキ右端点)、腕木左先端部(ミサキ左端点)、腕木右中央部、腕木左中央部、アクド中央上部。

なお、実演者には通常の仕事着にて風選を実施してもらった。右側肩部、左側肩部、右足趾部、左足趾部、右踵部、左踵部、については、直接マーカを貼付し、それ以外の部位については、それぞれの部位のサポーターを実演者に身につけてもらい、そこにマーカを貼付することで、より身体動作を反映したデータが取得できるように努めた。

図1 マーカー(左) 図2 キャプチャマーカー(中) 図3 撮影の様子(右)

(3)動作記録の内容

動作記録の内容は概ね以下の通りである。

  1. 中型の面岸箕による大豆の風選
  2. 大型の面岸箕による大豆の風選
  3. 中型の面岸箕によるアマランサスの風選
(4)データ記録後の処理

データの記録後は、記録された各マーカをソフトウェア上で繋ぎ合わせ実演者と箕のスティックピクチャ(図4)を生成した。なお、動作による影響のため、マーカが正しく認識されていない箇所が生じることがあった。これらについては、ソフトウェア上で前後のフレームのマーカ位置から自動的にマーカの位置を推定し、補完することがあった。また、それらのデータをデータ統合解析プログラムであるKineAnalyzer(キッセイコムテック社)を使用し、動作の可視化や各マーカの座標変位などを明確化するとともに、動作の解析を行った。

図4 生成したスティックピクチャの一例

3. 面岸箕による風選の動作の解析

(1)スティックピクチャへの観察にみられる動作の解析

記録した各実演のスティックピクチャを観察し、比較検討を行った。まず、箕の大きさ、対象物の差にかかわらず、すべての試行にみられた傾向として、風選の際には肩部より下部、とりわけ下半身の動が少なく、基本的に腕の上下、ならびに、手首のスナップにより箕を動かしていることが確認された。また、腕部の動きはそれほど大きなものではなく、手首のスナップが箕の動きに大きな影響を与えているように推察された。

つづいて、箕の大きさの差異に伴う風選の動作について観察した。実演者のスティックピクチャに注目すれば、大型の箕の使用時は中型の箕の使用時と比べて重心位置が低く、前傾の角度が顕著に大きい様子が確認された(図5)。実演者からは「大きな箕を振るうのは疲れるので最近はあまり使わない」という発言があり、箕の重量の関係から高位に箕を持ち上げる動作は疲労を伴うことから、このような使用方法となっていることが考えられた。また、箕の動きに着目すれば、アクド中央部は大きく変位せず、ミサキはアクド中央部を中心とした円運動に近い動きを呈していることが確認された(図6)。より正確には、鉛直方向の並進運動も観察されるため、この風選の運動は、回転運動(円運動)と鉛直方向の並進運動で説明できよう。この動きは、ミサキが最上部にある時点から振り下ろす際に、風選のための空気の動きが顕著に発生することと連動していると考えられた。これは、箕全体の動きとしてみると「あおいで風を起こす動き」と換言してもよいだろう。内容物を「上へ放る」のではなく、いかにして風を起こすことが重要であるということと連動した動きともいえる。箕のサイズが大きい方が生じる空気の量が多いことは容易に想像されるが、おそらく、大きな箕の方が効率よく風が起きる、すなわち、効率よく風選ができていたことだろう。しかしながら、箕が大きくなれば、箕そのものの重量も増加し、加えて、空気抵抗と内容物の量(質量)も増加する。このことは実演者の「大きな箕は疲れるので最近あまり使わない」との発言に改めてつながるものであろう。

図5 大型の箕使用時(左)と中型の箕使用時(右)の前傾姿勢の角度の差異

図6 中型の箕使用時のスティックピクチャの右側面における0〜1秒間の箕の軌道(左)とその詳細(右) ※0.1秒毎の計11フレームから構成。

一方で、風選の動作で特徴的であったのは、風選の動作中にミサキの高さが最下点に変位する前で、アクド中央部に細かな運動がみられた点である。いうなれば、大きな箕振り動作内に小さな動作が織り交ぜられていた。また、これに連動して、ミサキの先端も細かく段階的に振り止めるような動きがみられた。これらは、手首のスナップが影響しているように観察された。一方で、ミサキが最上部に達した際においては、上記のような細かな動きは発生していなかった。ここで、風選の対象物による差異を見ると、上述の大豆の際に見られたアクド中央部、ならびにミサキ先端の「振り止めるような動き」は、アマランサスを対象とした際には観察できなかった。これは、箕の上面での、大豆の動きとアマランサスの動きの違いによるものと推察される。おそらく、大豆は箕の面に接地する時間が長く、箕面上での転がりを考慮した微調整が必要となる。そのため、上述の動きを箕振りの動作内に取り入れる必要があったのではないだろうか。あるいは、単にある程度の質量のある内容物を受け止める際に生じる衝撃の可能性も否定はできない。一方で、アマランサスでは、箕を振り下ろす際の空気の流れの影響が大きく、箕面の微調整よりも、いかにして効果的に風選を行うか、すなわち空気をコントロールするかが重要となる。したがって、上記のような動作を必要としなかったのであろうと推察した。

以上を要約するとスティックピクチャの観察にみられる動作解析として、以下の知見を得た。

  1. 風選の際には肩部より下部、とりわけ下半身の動が少なく、基本的に腕の上下、ならびに、手首のスナップにより箕を動かしている
  2. 箕の動きに着目すると、アクド中央部は大きく変位せず、ミサキはアクド中央部を中心とした円運動に近い動きを呈していることが確認された。これは「あおいで風を起こす動き」と換言することができ、いかにして風をおこすかということと連動した動きであろう。
  3. 動作中にミサキの高さが最下点に変位する前で、アクド中央部に細かな上下運動(振り止めるような動き)が確認されることがあった。これは、大豆の際に見られたが、アマランサスではみられなかったことから、①質量のある内容物の箕面上での転がりを考慮した微調整のための動きと考えられる。しかし、②単に質量のある内容物を受け止める際に生じる衝撃という可能性も否定はできない。
(2)マーカの高さ方向の変位にみられる動きの解析

各試行の5秒間における腕木右先端部(ミサキ右端点)、腕木左先端部(ミサキ左端点)、アクド中央上部のマーカの高さ方向の変位(Z軸方向の変位)を出力し、データ上での解析を試みた。

まず ① 中型の面岸箕による大豆の風選 の各マーカのZ軸方向の変位は図7の通りである。ミサキの最上点はおよそ120cm~160cm内の位置にあり、最下点はおよそ80~95cm内にある。一方。アクド中央上部の最上点はおよそ95~105cm内の位置にあり、最下点はおよそ80~95cm内にある。また図7内にて示している通り、ミサキが最下点に到達する前にアクド上部に若干の上下運動が起こっていることが明確に確認できるが、これが上述の手首のスナップによる「振り止めるような動き」である。また、振り上げる前にも同様に手首のスナップを効かせるような挙動が見受けられるが、これも3-(1)の「内容物を受け止め、箕面上での転がりを考慮した微調整」の結果であると考えられる。5秒間内におおむね7回の箕振り動作を行っているが、その箕を振るうリズムは概ね一定であり、安定した軌道で振っていることがグラフからも読み取れる。また、ミサキとアクドはともに最下点は80~95cmの位置にあり、ミサキがアクド中央部より下点に変位することはないことが明確化された。

図7 中型の面岸箕による大豆の風選の際のアクドとミサキの高さ方向の位置の変位 (30s-35s)

つづいて ② 大型の面岸箕による大豆の風選 の各マーカのZ軸方向の変位は図8の通りである(1)。ミサキの最上点はおよそ125cm~165cm内の位置にあり、最下点はおよそ65~105cm内にある。アクド中央上部の最上点はおよそ65~95cm内の位置にあり、最下点はおよそ80~95cm内にある。5秒間内におおむね7〜8回の箕振り動作を行っている。図8の各マーカの軌道を描いたグラフはやや安定せず、箕の大きさ・重量ゆえか、やや扱いづらさがうかがい知れる。上述の「振り止めるような動き」については、ややアクド中央上部をみれば、やや手首のスナップを効かせている様子が確認できるが、アクドには大きな影響はない様子が確認された。

図8 大型の面岸箕による大豆の風選の際のアクドとミサキの高さ方向の位置の変位 (30s-35s)

最後に ③大型の面岸箕による大豆の風選の各マーカのZ軸方向の変位は図9の通りである。ミサキの最上点はおよそ105cm~130cm内の位置にあり、最下点はおよそ50~70cm内にある。一方、アクド中央上部の最上点はおよそ75~80cm内の位置にあり、最下点はおよそ60~70cm内にある。グラフ上で見れば、②と同様に上述の「振り止めるような動き」の手首のスナップが効いている様子は確認できるが、アクドには大きな影響はない様子が確認された。なお、5秒間内におおむね8回の箕振り動作を行っているが、その箕を振るうリズムは概ね一定であり、安定した軌道で振っていることがグラフからも読み取れる。

図9 中型の面岸箕によるアマランサスの風選の際のアクドとミサキの高さ方向の位置の変位  (25s-30s)

以上、マーカの高さ方向にみられる動きについての解析を行ったが、より詳細な考察をおこなううえでは、縦方向、横方向の変位や、速度、加速度等についても検討を行う必要があろう。

おわりに

本研究では異なる大きさの面岸箕を対象に、それを用いて大豆、アマランサスの風選を行う際の動作のデータをモーションキャプチャにより取得し、その動作の①スティックピクチャの観察、ならびに②高さ方向(Z軸方向)のマーカ変位による解析を試みた。その結果、動作の特徴の明確化がなされるとともに、箕の大きさや内容物によって、使い方に変化がみられる可能性が示唆された。このことにより、生活様式の急速な変容に伴い生活の場から消失しつつある生活用具に対して、使用、特に動作の側面からの記録・保存・解析の必要性・重要性を改めて認識することができた。その意味では、当該領域において、モーションキャプチャによる動作記録、ならびに、その保存と解析は、今後ますます重要になろう。

一方で、本研究では、実演者が1名である点や、各マーカの縦・横方向の変位や速度・加速度の変化に関する検討が不十分である等課題が残る。今後については、データをさらに収集しつつ、より詳細な解析を試みていきたい。

(1)図内アクド中央上部の一部にみられるグラフの欠損は、データ取得時にキャプチャカメラの死角になる等でマーカの位置情報を取得できなかったことに起因するものである。