植田憲、青木宏展(千葉大学デザイン文化計画研究室)

1. はじめに

このページでは、人やものの動きを可視化することができるモーションキャプチャシステムを活用し、熟練者と非熟練者の箕を用いた米を簸(ひ)る動きの可視化と比較の試みをご紹介します。

モーションキャプチャで取得されたデジタルデータは、映画やビデオゲーム内でのCGキャラクターの動きをより人間らしくしたり、スポーツやリハビリテーションにおいてより効果的な動きを明らかにしたりするなど、すでに広く実用化が進んでいます。

このモーションキャプチャによって、とくに箕をはじめとした民具等を使う熟練者の動きを可視化することで、長い時間をかけて体得された道具を使う術(すべ)を可視化できるのではないか、本試みはそんな思いから実施したものです。

なお、ご覧いただく動画は、2016年12月に千葉県匝瑳市の木積箕づくり保存会の方々のご協力を得て取得したデータをもとに、2020年12月2日~2021年1月28日に開催した「箕のかたち−自然と生きる日本のわざ」展に合わせて、より見やすくなるように再編したものです。

※箕を振るうことによって生じる風の動きを利用し、もみ殻などの不純物を取り除くこと。

 

2.  熟練者、米を簸る

早速、モーションキャプチャにより可視化した熟練者の米を簸る動きをご覧ください。

この方は箕を使うだけでなく、ご自身で制作も行っている、まさに箕の「熟練者」です。使用したモーションキャプチャシステムは、赤外線カメラでマーカーの動きを読み取るものです。動画では熟練者の両肩・肘・手首・腰・膝・かかと・つま先に取り付けた各マーカーを赤線でつなぎ、また、箕の両先端と持ち手の中央部のマーカーを青線でつないで表示し、正面、左右の両側面を配置しました。なお、マーカーは黄緑色で表示されますが、その動きの軌道も見ることができる状態にしています。

 

3.  非熟練者も米を簸ってみる

一方で、非熟練者の方にも協力を仰ぎ、実際に米を簸っていただきました。熟練者の方と同様の環境で撮影を行ったものです。

 

4.  熟練者と非熟練者の箕振り動作の比較

ご覧いただいた熟練者と非熟練者の動きを隣同士で配置し、比較する動画も作成しました。今回は左斜め上からみた動きを表示しています。先ほどの映像と併せて、簡単に映像から観察できる動きを比較してみたいと思います。

箕のポジションと角度

まず箕のポジションですが、熟練者は低めに構えているのに対し、非熟練者はやや高めに構えている様子が確認できます。また、箕を保持する位置についても、熟練者は箕を深く(箕の先端により近く) 持つのに対し、非熟練者は浅い(箕の先端からより遠い) 位置で保持しているようです。そのためもあってか、熟練者は箕の両先端を自身の肘あたりの高さまでしかあげることはありませんが、非熟練者は箕を上方へ大きく振り上げている様子が確認できます。

ここから、熟練者は重力を利用し、最小限の動きで米を「落下させ受け止める」のに対し、非熟練者は米を一度「空中へ高く放り投げ」てから受け止めているのではないか、と考察できます。

箕の振り方、リズム

箕の振り方について、熟練者は箕を左右に揺り動かしながら振る様子が確認できます。また、足踏みをするように体全身を連動させ、ほぼ一定のリズムで箕振りを行っています。これに対し、非熟練者は主に上半身の力を利用し、ほぼ真上に箕を振っているように見えます。また、箕の先端の軌道を確認すると、米の落下位置に合わせているためか、箕を前方、後方に適宜コントロールしている様子が確認できます。

総じて、熟練者の箕振りの動きからは重力や全身の動きを連動させながら、無駄なく的確に米を簸っている様子が読み取れます。

 

5.  おわりに

このページでは、箕を用いた熟練者と非熟練者の米を簸る動きのデータを比較しながら、簡単な考察を行いました。

熟練者と非熟練者、ともに1名ずつの方を対象にしたものですから、上述した考察が適当であるかは断言できません。より深い考察を行うためには、動画の観察のみならず、各マーカーの変位や加速度といったデータを読み解いていく必要があると考えています。しかしながら、データ化によって人の動きが簡素に可視化されることで、見過ごされてしまいがちな動きに注意を向けることができるのではないかと思います。本試みを発展させながら、道具を使う動きに内包された、まさに「自然と生きるわざ」を再発見していければと考えています。

みなさんも今一度動画を見直してみると、新たな発見があるかもしれません。