
外仕事に出かけるときに背負う、背負い籠。
両手が空いて便利な、いまでいうリュックサックです。
全国には様々な形の背負い籠がありますが、山村特有の背負い籠のひとつに、ヤマザクラの樹皮(外皮)を使って編んだ籠があります。

そもそもヤマザクラの樹皮は、日本列島全域でさまざまな民具の補強、装飾、結束などに使われてきました。
いまでも角館町(秋田県仙北市)に伝えられている「樺細工(かばざいく)」はよく知られていますね。

日本では樹皮利用の文化が非常に発達していますが、ほとんどのケースでは、内樹皮のみ、あるいは外皮と内樹皮を一緒に利用します。
外皮だけを利用する樹木は、おそらくヤマザクラだけではないでしょうか。
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このヤマザクラの樹皮を使った背負い籠が、山間地域を中心に各地でぽつぽつと見られるのです。
ヤマザクラ1枚では弱いためか、別の素材と一緒に編まれるのが常で、定番素材であるヒノキやケヤキの内皮(もしくはケヤキの木質部を薄く細く剥いだもの)に加え、サワグルミの内皮なども使われるようです。
重ねて編むことから、タケ籠などに比べるとちょっと重ための、がっちりした籠です。

(阿智村教育委員会蔵)
一面ヤマザクラ材で編まれているように見える長野県阿智村の「イジッコ」も、よくよく観察すると、中に別材(ヒノキ)が覗いていますね。

右:カンバ(ヤマザクラ)とノブノキ樹皮(サワグルミ?)の背負籠(島根県津和野町、日原歴史民俗資料館蔵)
また、ヤマザクラは装飾・補強として口や底にちょっぴり使うだけで、他の素材が主体で編まれたもの、素材半々で装飾的に編んでいるものもあり、バリエーションはとても豊か。
身近で入手できる素材を使い、それぞれの地域でできるだけ使いやすく、美しく、と考えながら作った様子が想像できます。

左:ショイコ(奥三河郷土館蔵) 右:背負い籠(静岡市井川自治会蔵)
このヤマザクラの背負い籠、管見の限りで静岡、愛知、長野、岐阜、島根、徳島、高知などの山間部に、よく似たものがあることを確認しています。
どこの地域でも、使われる素材・編み方などは似たりよったり。
伝播したのか、偶然同じ素材を選んだのか、気になりますね。
類例は探せばもっとあるはず?!
みなさんの地域で同じような籠を見かけたら、ぜひ教えてください。
参考文献:大庭良美1992『日原民具志』日原町教育委員会
サクラ関連の報告書はこちらも☞『樹木利用の文化―桜をつかう、桜を奏でる』
執筆:今石みぎわ(東京文化財研究所)
公開:2025年7月23日