| ◎前略見（ぜんりやくみ）もて徃（ゆ）けるまゝ各作家（かくさくか）の画（ぐわ）に就（つ）き思（おも）ふ節々（ふしぶし）を記（しる）して投（とう）すべし三宅氏（し）の画（ぐわ）は総（そう）じて奇麗（きれい）に手際（てぎは）なのには一言（ごん）もなし雲（くも）などの現（あら）はし方（かた）に至（いた）つては実（じつ）に感服（かんぷく）の外（ほか）なし、唯（た）だ何処（どこ）も彼処（かなた）も同（どう）一調子（てうし）にて物質（ぶつしつ）の変化（へんくわ）に乏（とぼ）しきと稍（や）やコロム板染（ばんじ）みて見（み）ゆるとは甚（はなは）だ遺憾（ゐかん）なり十号（秋（あき））の画（ぐわ）など殊（こと）に其鮮（そのせん）を見（み）る八号（がう）（初秋（はつあき））十四号（がう）（ハンプステツトクタ）廿三号（がう）（晴模様（はれもやう））等（とう）は実（じつ）に油絵（あぶらゑ）も及（およ）ばざる立派（りつぱ）なる絵画（くわいぐわ）と云（い）ふべし。玉置氏（し）の作（さく）は毎年明治美術会（まいねんめいぢびじゆつくわい）にて見（み）たる所（ところ）、依然無意味（いぜんむいみ）にしてぞんざいなるには驚（おどろ）けり今少（いますこ）し親切（しんせつ）に画（か）きては如何（いかん）漁夫の図（づ）デツサンには大分申分（だいぶんまをしぶん）あれど真面目（まじめ）の作（さく）たるに近（ちか）し。中沢氏（し）の作（さく）は何（いづ）れも佳（か）なり強（し）ひて非（ひ）を挙（あぐ）れば美人の図（づ）夏衣（なつい）としては稍や重（をも）きに過（す）ぎずや手（て）も少（すこ）しくかたくなに見（み）ゆ若夫（もしそ）れ画（ゑ）を軽（かる）く見（み）せんとて軽率（けいそつ）に描（えが）くに比（ひ）すれば優（まさ）ること萬々（ばんばん）、風景何（いづ）れも上出来（ぜうでき）二子山殊（こと）に可見（みるべし）。原田氏（し）は今（いま）一息（いき）の修練（しうれん）を望（のぞ）む調色何（てうしよくなん）となく物足（ものた）らぬ心地（こゝち）す。山木氏（し）の作（さく）は不相変用意周（あひかはらぞよういあまね）くして正直（せうじき）なるは悦（よろこ）ぶべし調色光線（てうしよくゝわうせん）の説明共（せつめいとも）に申分（まをしぶん）なく此状（このぜう）を以（もつ）て進（すゝ）まんには彼岸（かのきし）に達（たつ）する或（あるひ）は庶幾（ちか）きか。湯浅氏（し）の画（ぐわ）は色（いろ）なり描法（べうはう）なり調子（てうし）なり一点（てん）の非（ひ）を認（みと）めず実（じつ）に嘆賞（たんせう）するに堪（た）ふ若（も）し強（し）いて難（なん）ぜんか草掻き女の如何（いか）にもモデル然（ぜん）たると月夜（つきよ）の水（みづ）に映（えい）ぜる影（かげ）の色（いろ）の強（つよ）きに過（すぐ）る位（くらゐ）なるべし朝靄の図（づ）広重若（ひろしげも）し在（あ）らば涙（なみだ）を流（なが）して悦（よろこ）ぶなるべし。長原氏（し）の画炎天（ぐわえんてん）の情女児（なさけじよじ）の性質充分（せいしつじうぶん）に写（うつ）さる背（せ）なる小児（せうに）の寝（ね）だれたる様感服（さまかんぷく）せり蜻蜒は竿（さを）の糸（いと）に束（くゝ）られ居（ゐ）るにや少（すこ）しく説明（せつめい）を欠（か）けり子守若（こもりも）し蜻蜒（とんぼ）に意（い）を寄（よ）せ居（ゐ）るの情（ぜう）あらば一段（だん）の妙（めう）を見（み）ずや如何（いかん）。小林氏（し）の門附け題（だい）の随分（ずゐぶん）に凝（こ）りたるに比（ひ）し意味（いみ）の足（た）らざる心地（こゝち）す全体（ぜんたい）の排置調色上出来殊（はいちてうしよくぜうできこと）に男（をとこ）の後（うし）ろ姿佳（すがたか）なり唯（た）だ地（ぢ）べたはブクつきて地盤（ぢばん）の観（くわん）を欠（か）く。黒田氏（し）の画評（ぐわへう）する丈（だ）け野暮（やぼ）なり海辺（かいへん）の冬（ふゆ）の情致充分（ぜうちじうぶん）にして風（かぜ）の吹（ふ）き居（ゐ）る工合得（ぐあひえ）も云（い）はれず画中恰（ぐわちうあた）かも動（うご）き居（ゐ）るが如（ごと）し争（あらそ）はれざるものかな。藤島氏（し）の裸体上半部（らたいぜうはんぶ）を褒（ほ）め下半部（しもはんぶ）を貶（へん）するの人（ひと）あれど余（よ）は大反対（だいはんたい）なり顔附（かほつ）き手先（てさき）の外形（ぐわいけい）は優（や）さしく見（み）ゆれども顔（かほ）も髪（かみ）も同調（どうてう）の下（もと）にふわ附（つ）きて薄（うす）ツペラに見（み）ゆ何（いづ）れかに綮（しま）りたる所（ところ）ありたし二の腕（うで）より手首（てくび）に亘（わた）り何（なん）となく堅（かた）く少（すこ）しく曖昧（あいまい）なりと思（おも）ふ腰以下（こしいか）は之（これ）に反（はん）し膝蓋（しつがい）の辺足（へんあし）の甲（かふ）の辺（あた）り骨格（こつかく）も確（たし）かに堅（かた）くなるに非（あら）ずしてシツカリと見（み）らる浴衣（ゆかた）の大形模様（おほがたもやう）の辺（あた）りこそ堅（かた）く思（おも）はるれ他（た）に下半部（しもはんぶ）の方優（はうまさ）れり金盥其他辺（かなたらひそのたあた）り■■め実（じつ）によく描（えが）かれたり菜の花は小品書斎（せうひんしよさい）などに欲（ほ）しき可愛（かあい）の小品（せうひん）。和田氏（し）の室内品、調色（てうしよく）に富（と）める氏（し）の作（さく）とし小品尚（せうひんな）ほ見栄（みばえ）あり（似黒人） |
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