| ◎久（ひさ）しく裸体画（らたいぐわ）の評判（へうばん）なかりし処白馬会（ところはくばくわい）に出（い）でたりと聞（き）き見物致候此度（けんぶついたしさふらふこんど）は黒田画伯（くろだぐわはく）の智感情（ちかんぜう）は巴里（ぱり）に洋行中（やうかうちう）のことゝて藤島武二といふ人（ひと）の浴後の美人代理（だいり）を勤（つと）め居（ゐ）るといふ有様（ありさま）に候浴（さうらうよく）を出（いで）て台（だい）に腰掛（こしか）けながら鋏（はさみ）にて爪（つめ）をとり居（ゐ）る図（づ）なるが上半部（かみはんぶ）は体（からだ）の骨格（こつかく）もよく指（ゆび）を反（そ）らして爪（つめ）をとり居（ゐ）る一寸複雑（ちよつとふくざつ）した一部分（ぶぶん）も中々手際（なかなかてぎわ）に出来申候（できまをしさふらふ）ソレに顔（かほ）もよく櫛巻（くしまき）の髪（かみ）も洗（あら）ひ髪（かみ）のさばさばとしたるを束（つか）ねたる工合軽（ぐあひかる）く写（うつ）され光線（くわうせん）の取（と）り方（かた）もおもしろく此辺（このあた）り飛附（とびつ）くほど宜敷覚（よろしくおぼ）へ申候遺憾（まをしさふらふいかん）なるは腰（こし）より下部（かぶ）に有之（これあり）、殊（こと）に右足（うそく）の画（か）き方如何（かたいか）にも重（おも）くして稍（や）や太（ふと）く木（き）で造（つく）りし足（あし）をくツゝけたる様（やう）に思（おも）はれ左（ひだり）の足（あし）も何（ど）ふやら上半部（ぜうはんぶ）と続（つゞ）き居（を）らざるが如（ごと）く見（み）へ申候股（まをしさふらふもも）のあたりに掛（か）けたる浴衣（ゆかた）は堅（かた）くして全然物質（まるでぶつしつ）の説明（せつめい）を欠（か）き居候（をりさふらふ）は如何致（いかゞいた）されたることかと案外（あんぐわい）に存候（ぞんじさふらふ）（裸美（らみ））＠◎（前略（ぜんりやく））白瀧氏の花嫁栄（ゑい）三郎（らう）といふ顔（かほ）なり衣装（ゐせう）の質（しつ）も見（み）へてよく殊（こと）に後（うし）ろの女中（ぢよちう）の持（も）ち居（ゐ）る襠（かけ）の画（か）き方（かた）は薄（う）ツすらとしたやわらかなといふ心持（こゝろもち）を充分（ぢうぶん）にして写（うつ）されたは感心母（かんしんはゝ）の抱（だ）いて居（ゐ）る小児（せうに）の袖少（そですこ）しも皴（しは）なく何（なん）となく円（まる）きものを押（お）つ附（つ）けたる如（ごと）く見（み）へ母（はゝ）の顔（かほ）は筆甚（ふではなは）だ弱（よは）き為（た）め線（せん）として認（みと）むべきものなきが如（ごと）し毛糸をいぢり居る少女はさらりとした出来頚（できくび）より上特（うへとく）に宜（よろ）しく体（からだ）もよくはいり居（を）れど其腕（そのうで）は少（すこ）しもまるみなく薄（うす）ツぺらにして骨（ほね）も肉（にく）もある腕（うで）とは見（み）へず」長原孝太郎氏（し）の子守り氏（し）の作中（さくちう）では近来（きんらい）の大物（おほもの）なるべしさらりとした筆（ふで）の間（あひだ）に確（たし）かなる所あり彫色（てうしよく）の工合光線（ぐあひくわうせん）のとり方好（かたよ）く相適（あひかな）ひ誠（まこと）に面白（おもしろ）し背負（せお）はれ居（ゐ）る小児（せうに）のたあいなく寝（ね）て居（ゐ）るさま雑作（ざうさ）なくよく其趣（そのおもむき）を写（うつ）されたり地上（ちぜう）より足先（あしさ）きに掛（か）けてのつよき影（かげ）も面白（おもしろ）きことなり。」小林萬吾氏（し）の門附け男（をとこ）の後（うし）ろもかなり少（すこ）しひねりたる工合可成（ぐあひかなり）に写（うつ）されたり女太夫（をんなだいふ）の持（も）ち居（ゐ）る三味線（みせん）の棹（さほ）は稍（や）や短（みじか）く見（み）ゆ後（うし）ろのオカモチを携（たづさ）へながら見返（みかへ）り居（ゐ）る女（をんな）の子（こ）の顔今少（かほいますこ）し無邪気（むじやき）なるがよかるべし其足（そのあし）の甲（こう）の厚（あつ）さを凡何寸（およそなんすん）なるや聞（き）きたし（画狂生） |
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