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陳列の工合から装飾（そうしよく）から諸事余程整ふて居る。殊に観（み）る人ごとに目録（もくろく）を一冊づゝくれるなどは誠（まこと）によく行届いたことだ。誰筆何の図売価何円などゝといふうるさい附札（つけふだ）を廃（はい）して番号札だけ体（てい）よくつけて、目録（もくろく）と合せて見（み）るやうにしたのは最（もつと）も宜しいどの展覧会（てんらんくわい）よりも一番整頓進歩して居る。留守役（るすやく）の安藤、藤島、長原はじめ正会員諸氏の苦心の甲斐ありだ。そこで貰（もら）つた目録と引合せて段々見（だんだんみ）て行（ゆ）くと、まづ一番入口（ばんいりぐち）に三宅克己の水彩画（すいさいぐわ）がある。二十八枚とは能（よ）く描きためた。水彩画専門（すいさいぐわせんもん）といふは殆ど此人（このひと）が初めてだらう。随分細巧なものだ。だがどうも西洋で描いて来たと想はれるハムステツドの景色朝夕（けいしよくてうせき）の一枚などが一番旨（ばんうま）いやうに見（み）えるは妙（めう）だ。其他（そのた）は平遠の景色雪の朝（あさ）、雨雲などが善（よ）いやうだ。一体（たい）がちと細工過（さいくす）ぎてこぢついた趣がある。次の二三人別に是といふほどのも見えず。中沢の夏（なつ）と題（だい）したる女が植木鉢を持てる図人物は人形じみて旨（うま）くもないが、周囲（しうゐ）の草は一寸善（よ）く出来て居る。原田竹二郎の萩園一寸宜し、スケツチでは雪景（せつけい）の三枚が見（み）られる。山本森之助、大分腕のある方なり、それにスケツチでも最も骨が折つてあるから何（いづ）れも見所（みどころ）あり。湯浅の諸作（しよさく）またこれと相如（あひし）くべし。此二人なかなかのやり手後来有望（てこうらいゝうぼう）のものとす。長原の子守、大いに見るべき大作なり。草原は軽（かる）く出来（でき）たれど、影（かげ）の青色が少（すこ）し目に障る。右（みぎ）に日傘を持（も）ち左に蜻蛉（とんぼ）さしの竿持（さをも）ちたる、あべこべにしたき心地す、小林の「かとづけ」是も屈指（くつし）の大作なり。奮発（ふんぱつ）のほど感（かん）ずべし。たゞ人物（じんぶつ）が一体に少（すこ）しぎこつちない気味（きみ）を脱（だつ）せず、見返りたる少女が殊（こと）にさうだ。スケツチには色のくすみたるが多し。黒田の諸作皆小品（しよさくみなせうひん）。肖像の老人髯殊に善し。次（つぎ）は藤島。風景（ふうけい）といふ大きな画、どこやら図取が前回（ぜんくわい）に見（み）たベルギイ人の作（さく）の面影（おもかげ）あり。色は美（うつく）しいのを列（なら）べたといふ気味（きみ）。余（あま）り上出来の方に非ず。浴後（よくご）の美人、人体（じんたい）は慣（な）れたものとて大分旨い。衣物の模様少しも感心せず金盥は宜しけれど腰掛が変（へん）な物（もの）にて相応ぜず。何（なん）とか工夫（くふう）のありたかつたものなり。小品の中にては菜の花など勝（すぐ）れたる方（はう）なるべし。安藤の三保の残暉は景色画中（けいしよくぐわちう）の雄鎮さすが老成（ろうせい）の腕（うで）なり。北連蔵の富士（ふじ）に善き作あり。雨（あめ）といふのも面白（おもしろ）し。篦画得意と見（み）ゆ矢崎のでは鸚鵡を教ふる図を推すべし。次に洋人オールリツクとやら、光琳崇拝と聞きしが、成程水彩画みな光琳めきたり。余り讃めたことにあらず。次の見（み）ものが白瀧の大幅（たいふく）の花嫁なり。美しい画なり。是（これ）で今少（いますこ）し人物に活気（くわつき）あらばなかなかの価打物なるべし。スケツチにては舞子の松原殊に善く出来たり。東寺の雪後（せつご）、菜（な）の花（はな）などこれに亜（つ）ぐ。＠画はまづざつとこんな物（もの）なり。彫刻（てうこく）は菊地の肖像が二ツあるばかり、肖て居るなるべし。たゞ顔の道具が一体（たい）に大き過（す）ぎ、こなしが手（て）あらく深過（ふかす）ぎて、はゞつたきやうに見えるが此人の風なり。＠（白馬会略評終）＠美術協会の展覧会（てんらんくわい）も既に始まつたから、明日は行つて見て、出揃つて居たなら、これに続いて評判すべし。美術院、丹青会も程なく開くといふ。無名子なかなかの大繁昌。いくらでも来い。 |
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