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洋画（やうぐわ）の方は日本画ほど理屈（りくつ）を陳（なら）べることが少い、さるは、日本画はなほ進化（しんくわ）の中途、過渡（くわと）の有様に在るので、主義方針（しゆぎはうしん）や描（ゑが）き方などの上でも得失（とくしつ）の論ずべきことがなかなか多いけれども、洋画（やうぐわ）に至つては理想（りさう）も写実も印象（いんせう）も自然も、やるだけやつて見た上（あ）げ句（く）だし、描き方の工夫（くふう）も最早大概の研究は済んで居るから、理屈は今更言（いまさらい）ふだけが野暮（やぼ）かも知れぬ。白馬会が如何（いか）に印象派の極端（きよくたん）に走らうとも、まさか美術院の朦朧日本画（もやもやにほんゑ）のやうにもなるまいし、高が素人連（しろうとれん）に灰神楽（はいかぐら）だなどゝ言はれる位のものであるし、明治会派が如何に旧派（きうは）と嘲（あざけ）られ盛に脂色（やにいろ）を使ひまはしたとても、まさか一般の日本画ほど不自然（ふしぜん）な色彩（しきさい）にもなりはすまいと思へば、まづまづ世話（せわ）の焼けない方だ。たゞ何（なん）にせよ始めてから百年にも足らぬ修行（しゆげふ）だから無理（むり）もないが、仏蘭西へ行（い）つて耻（はじ）かくほど幼穉（ようち）なのが心外で堪らぬ。何には構（かま）はず腕を磨（みが）くが専一だ。生中（なまなか）、今の中から新派だの旧派だの印象派だのといふには及ばぬ。空気（くうき）の有るなしは流儀に依るものでなく、写生（しやせい）の腕の上手下手（じやうずへた）に依るのだし、印象といふものとても客観（かくくわん）の色や形を誠実（せいじつ）に写（うつ）して得るより外に道がないのだから、写生を基とする洋画の何の派だとで、腕（うで）さへ善（よ）ければ帰（き）する所の違ひやうもあるまい。色の微細（びさい）の変化（へんくわ）は自然を観（み）る人の目ごとに多少の異同（いどう）は免れない筈のものだから、何もどういふ色（いろ）が必しも悪（わる）いとも言へまい。そんな事よりも大事（だいじ）の大事の技倆（ぎりやう）といふものが肝心だ今の日本の油絵を見ると、第一まづ人物などのみんな何処（どこ）か「モデル」臭味の脱（ぬ）けない所のないものはありはしない。これは言ふまでもなく、まだモデルを使（つか）ひこなす腕の足（た）らずに、多少モデルに縛（しば）られる気味（きみ）のあるからだ。今度の会にも大分人物の大作はあるが虚心平気（きよしんへいき）になつて熟々見（よくよくみ）ると、どうも日本画の鳥などのやうな活脱自在（くわつだつじざい）な境に入つて居らぬ、ぎこつちない所が見える。せめて是だけなど早（はや）く老熟（ろうじゆく）させたいものではないか。感心なことに、白馬会の連中は描く描く盛に描く、一人で二十枚も出す人がある位で、一年間の作り溜めとは云へ、展覧会（てんらんくわい）に出品する一人の画の数（かず）の多いのには、無声会といへども及ばないほどだから、此熱心なる練習（れんしふ）を今十年も積（つ）んだなら、めつきり見上げる成績（せいせき）を示すやうにもなり、ぎごつちなくない人物も出来（でき）るであらう。此会（このくわい）は黒田の采配（さいはい）で是迄は盛（さかん）にやつて来たが、今年（ことし）は親玉が留守（るす）だからどうだかなどゝ云ふものもある様子だつたが、まさかさうでもなく、矢張実際みんな熱心にやつたればこそ三百余点の列品（れつぴん）も揃（そろ）うたのだ。明治会派の方から洋画青年会が起（おこ）るといふ噂（うはさ）の実際になりでもしない以上は、日本の洋画の光明は、此会の独擅（どくせん）に帰するであらう。白馬会もますます奮（うる）ひ、青年会派も眠つて居らずに、頻りに製作をやるが宜しい。白馬会とても頭株（かしらかぶ）の作（さく）はいざ知らず、若手の会員や準会員の作が一般に始めよりも進んで屑（くづ）のなくなつたのも、四回五回と展覧会の出し物に苦（くるし）んだ結果に外ないのだ、一般の程度（ていど）が進まない中には、嶄然頭角（ざんぜんとうかく）を顕はす作者（さくしや）も出来つこなし、描（か）き手の殖（ふ）える作の多くなるが、まづ以て望ましい事である。此点に於いて白馬会の効や少からずといふべしだ。 |
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