採取したシナノキの樹皮(山形県鶴岡市関川)

シナノキは、その樹皮が日本で最も多用されてきた木のひとつです。利用するのは内皮で、縄や紐、漁網、編みかごやの蓑の素材、糸にして織物にするなど、水に強く、強靭な繊維が多岐にわたって使われてきました。

現在、最も知られているシナノキ利用は、おそらく国の伝統的工芸品に指定されている山形・新潟の「しな布」でしょう。「しな布」は、梅雨時期に採取したシナノキの内皮を灰汁で煮たり、糠に漬けるなどの工程を経てから、薄く剥いで裂き、績んだ糸を使って織られます。

一方、ここで紹介するのは、奥会津でネジリッカワと呼ばれるシナノキの利用方法で、生のまま皮をねじって剥き、内皮を採取します。こうして採取された繊維は、水に晒すなどの工程を経ないためより強靭で、特に強さが必要とされる荷縄やロープに使われました。

シナノキ製の民具は多数残されていますが、どのように素材を採取し、一次加工したのか、その技術に関する記録は意外に多くありません。多様なシナノキ利用の一旦をご覧いただければと思います。

福島県昭和村におけるシナノキの捩じり剥き(ネジリッカワ)の技術記録。 昭和村在住の水野江梨氏が中心となって2021年に調査・撮影した映像を、東京文化財研究所がまとめました。

実 演:猪股良雄(1936-2023)・政子
調 査:水野江梨・今石みぎわ
撮 影:水野江梨・佐野真規
構 成:今石みぎわ
編 集:市川昴一郎・佐野真規
製作年:2023年(調査は2021-22年)
協 力:昭和村教育委員会・昭和村役場総務課からむし振興室
制 作:東京文化財研究所 無形文化遺産部

本映像は、三菱財団人文科学助成「無形文化遺産における木材の伝統的な利用技術および民俗知に関する調査研究」の一環で制作したものです。