多彩草花文レリーフタイル(不ニ見焼、20世紀前期)

「タイルは民具か?」と問われれば、厳密にはそれ単体で機能する民具とは言いがたいのですが、実用性と装飾性の両面から日本の建造物や屋内を支えてきた欠かせないパーツという意味では、人びとの生活に卑近な存在といえましょう。

今回は、そのなかでも近代日本の工業製品を代表する「和製マジョリカタイル」を紹介します。

和製マジョリカタイルとは、明治時代末、イギリスのヴィクトリアンタイルやマジョリカタイルを模して、日本で生産された多彩タイルのことをいいます。

その加工技術は独特で、金型を使って高圧プレスしたタイル表面に凹凸をつけ、模様の縁に畝状の線で区画線を施します。
この盛り上がるように施した線が堤防と輪郭線の役割を果たし、区画ごとに異なる色の釉薬を流し込んでも混ざることなく、多色で立体的な模様のタイルを焼成することができました。

多色草花文レリーフタイル(淡陶、20世紀前期)
「和製」の「マジョリカタイル」、需要高まる!

日本での金型を用いた乾式成形法の普及により、和製マジョリカタイルは安定的な量産が実現し、大正から昭和10年代にかけて盛んに海外に輸出された記録が残っています。

当時、インド・中国・東南アジア・アフリカなどでは、色鮮やかなタイルにあこがれ、建造物の外壁や室内を飾るために需要が高まっていましたが、本場イギリス製タイルは高価な贅沢品でした。
その点、和製マジョリカタイルは比較的安価であり、彼らにとっては入手しやすかったことも人気の理由のひとつです。
また、この時代、日本国内にタイルを用いた建築や生活様式は、まだ一般に普及しておらず、メーカーはその市場を海外に求めたことも関係しています。

単なるコピー商品じゃない!和製マジョリカタイルのオリジナリティ

加藤郁美氏によれば、和製マジョリカタイルのデザインは大きく3種類に分けられるといいます。

第一は、欧州製品の図柄を模倣したタイル。

ただし、欧州製のタイルを忠実に模倣するのではなく、当時の輸入先であった東南アジアの人々の好みや文化に合うように欧州製のそれより色彩が明るいのが特徴です。

多彩草花文レリーフタイル(イギリス製)
(メーカー不詳、19世紀後半~20世紀初期)
多彩草花文レリーフタイル
(佐藤化粧煉瓦工場、20世紀前期)

第二は、具象的なデザインが中心の中国・台湾へ輸出されたタイル。

中国で縁起がよいとされる果物(桃やザクロ)、花籠、蝙蝠、蝶などのいわゆる「吉祥文様」がデザインされたものです。

当時のタイルメーカーは、中国の文化や好みを知るべく、中国の商社に助言を求めたり、中国の縁起物である「年画」(春節に玄関や門戸に飾られる民画。縁起が良いとされる図柄が描かれている)を参考にしたりして、中国人好みのタイルの開発に取り組みました。

多彩果物文レリーフタイル(メーカー不詳、20世紀前期)
多彩果物文レリーフタイル(淡陶、20世紀前期)

第三は、インドへ輸出されたタイルです。

欧州製よりも安価な和製マジョリカタイルはインドでも需要が高く、特にヒンドゥー教をモチーフにしたタイルは大いに流行りました。
日本のタイルメーカーは、馴染みのないヒンドゥー教の神々の姿を在日インド人商社や貿易商などから入手したポスターを参考に図案化し、製品化しました。

サラスワティー女神レリーフタイル (M.S tile works(月星建陶社)、20世紀前期)

このように和製マジョリカタイルは、単に安価な外国の模倣版タイルを量産しただけではなく、日本独自の技術を深化させながら、輸出先のニーズに合わせてアレンジした「和製マジョリカタイル」というジャンルを確立していったのです。

日本のタイルメーカーの柔軟性、研究、挑戦の結果、和製マジョリカタイルは近代日本を代表する製品となり、最盛期では国内生産量の7~8割が輸出されていたといいます。

海を渡った生活文化財

日本の広義的なタイルの歴史は大陸から伝えられた寺院建築の屋根瓦、腰瓦、敷瓦に端を発し、屋根や壁、床などにその技術が用いられました。
さらに、近代には西洋建築とともに流入したタイルや煉瓦に耐久性や表面の装飾性を求めて国内製造を目指します。

その成形・焼成・釉薬の知識と技術は、近代化の過程で工業技術へと再編され、近代タイル産業の基盤を形成しました。
とりわけ和製マジョリカタイルは、日本の伝統的な窯業技術と近代工業が交差しながら独自の発展を遂げたのです。

多彩草花文レリーフタイル(淡路製陶、20世紀前期)

日本で生まれたこれらのタイルは各地へ輸出され、現地の建築文化と結びつきながら、地域固有の装飾文様や信仰的意味を帯びて受け入れられました。
海を越えて生活の中に根づいていった和製マジョリカタイルは、単なる工業製品ではなく、地域文化のなかに根付いた生活文化財と捉えることができましょう。

参考文献
INAXライブミュージアム 2018『和製マジョリカタイル―憧れの連鎖』 LIXIL出版
加藤郁美 2022「世界に広がった、和製マジョリカタイル」『日本のタイル100年 美と用のあゆみ』トゥーヴァージンズ
豊山亜希 2016「戦間期インドにおける日本製タイルの受容とその記号性」『社会経済史学』 82(3) 社会経済史学会
増田 研・深井明比古 2019「ザンジバルにおける日本製タイルの流通と利用―タイル考古学的アプローチ―」『多文化社会研究』 5 長崎大学多文化社会学部


執筆:加藤紫識(和洋女子大学)
協力:INAXライブミュージアム
公開:2026年8月3日